砂漠鰐は向日葵畑の夢を見るか?

□Chu!
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「ミス・オールサンデー。ミス・アニヴェルセルを見なかったか?」



 店のオープンを明日に控え、ミス・オールサンデーは店内の調度品の位置を確認していた。明日からしばらく忙しくなるだろうからディーラー達は今日は休ませるように、と言ってあったのだが、気が逸るのか、所々でカードを切ったりルーレットにボールを投げ入れたりしている者達もいる。だがその中に、探している女の姿は見当たらなかった。



「あら。さっき自分でF-ワニの用意をしておくように言ったんじゃなかったの? 外に向かって行ったけれど」
「ああ、だがそれにしちゃァ遅ェと思ってな。何をちんたらしてやがるんだ……」



 今日はこの後、レインベースの他のカジノの経営者連中に挨拶回りに行かなくてはならない。明日に備えてさっさと出掛けてさっさと戻って来たいのだが、F-ワニの準備を任せたネーナが、一向に準備完了の報告をしに戻らないものだから、俺は業を煮やして、自らあの女を探しに来たのだった。

 地下に出入りするには、店の中を通るしかない。外に出て行ったっきり見掛けていないとなると、まだ外にいると考えた方が良さそうだ。俺は一つ溜息を吐き、エントランスへと足を向けた。



 店の外に出てみれば、途端に黄色い声が上がる。見れば女共がうっとりとした視線をこちらに送っていた。服装から見るに、観光客ではなくこの国の女共のようだ。だとすれば、今後のためにも愛想を振り撒いておいて損はないだろう。目だけはネーナを探しつつ、俺はヒラヒラと手を振ってみせる。その仕草にまた一段と大きい歓声が上がると、辺りにいた者達も、なんだなんだと一斉に振り返った。



(――いやがった)



 そんな中、騒ぎがあっても振り返らない後姿があった。あのショートカットの良く似合う後頭部は、まず間違いなくアイツのものだ。呑気に店を囲む堀の石塀に座っているが、F-ワニの準備は終わったのだろうか。終わっていなければどうしてくれよう、と思ったその時。俺はその向かい側に対面して座る男の存在に気が付いた。



(――何故あの野郎が……!)



 ふてぶてしい態度。趣味の悪い葉巻。何もかもが気に入らない、あの海兵。俺の証言を疑って、わざわざここまでネーナを探しに来たというのか。

 最悪の事態が頭を過る。ネーナを攫ったのが自分だと露見すれば、”王下七武海”の権利は当然剥奪され、かの有名な海底監獄・インペルダウン送りになるだろう。そうなれば、巨額を投じて建設したこの店も、この店の売り上げで買おうと持ちかけていた銀の取引も、禁止されているのをわざわざ技術者を高額で雇って立ち上げたダンスパウダーの製造工場も――その先の理想に向けて着々と準備してきたもの全てが水の泡になる。あの女一人失うだけで、自分の理想とする未来が露と消えてしまうのだ。



(アイツは絶対に渡さねェ……!)



 俺はその身を砂に変え、ネーナの元へと急いだ。
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