拍手お礼SS集

□only your chocolate
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 ぷるぷるぷるぷるぷる……

 電伝虫の間の抜けた呼び出し音が、部屋に鳴り響く。その顔を見れば、目に水色のアイマスクをしていた。電話するときまで着けてるんじゃねェよ……と呆れながら、俺は受話器を取る。



「……何の用だ、青キジ」
「おっ。良かった、繋がって」



 のんびりした声。用件があるなら早く言いやがれ。こいつの飄々としたところが、俺は苦手だった。



「いやァ、今年もそろそろあの季節でしょ? センゴクさんからどやされてんのよ。受け取らないなら受け取らないで、最初から話をつけておけー、って」
「……バレンタインか。面倒臭ェ。どうせお前が酒のアテにしてるんだろう? ならいつも通り、受け取るがそっちで処理する、それでいいじゃねェか」



 毎年のように来る、この連絡。俺に懸想した女共が、自分の気持ちをどうにか伝えられないかと悩んだ結果、マリンフォードの海軍本部にチョコやらプレゼントやらを送りつける、という事態に、海軍もほとほと困り果てているらしい。



「それがさァ、バレちゃったワケよ」
「……バレた? 何がだ」
「アンタとドフラミンゴのことだよ。アンタら毎年、どっちが多くチョコを貰うか賭けてるんだってな? そんな賭けのために倉庫を丸々一つ潰すなんざ許さん! って、センゴクさんカンカンなのよ」



 ぐっ、と言葉に詰まる。俺は別に、何個貰おうが興味はないのだ。ただあのフラミンゴ野郎が、いくつ貰ったんだ、と毎年詰め寄ってくるものだから、お前よりは貰ってる、嘘つきやがれ、じゃあ賭けるか? ……と売り言葉に買い言葉で毎年そういうことになっている。



「こっちで一時的に受け取った後、まとめてそっちに送らせてくれるならいいんだけどさ。そうじゃないなら最初っから送られてきても受け取らないように係に言っとくから、どっちかにしてくんない?」
「そうだな……」



 実はもう、今年もあの野郎には吹っ掛けられている。そして俺も例の如く、大見得を切ったばかりなのだ。賭けを成立させるには受け取らなければならないが、ここに送られてくるのも厄介だ。第一、大量に送られてきたチョコを見て「アイツ」がどう思うか――



 脳裏に浮かんだその顔に、俺ははた、と思いつく。そして受話器の向こうの青キジに言った。



「青キジ。今年からは受け取らなくていい。毎年毎年悪かったな、とセンゴクに伝えておいてくれ」
「あァ? それはいいけど……賭けはどうすんのよ」



 受話器の向こうの声に焦りの色が浮かぶ。もしや、コイツも賭けに一枚噛んでやがったのか?



「いいんだ、俺は――1か0で」
「良かねェよ、俺はアンタに賭けてんだから……あ」
「ほぅ? テメェも賭けてやがったのか。それはセンゴクに知らせてやらねェとなァ……?」
 ガチャッ



 乱暴に、受話器が置かれる音がする。まったく、しょうがねェ野郎だ。俺は呆れて溜息を吐いた。



 どうでもいい女共からいくつチョコを貰ったかなんて、それこそどうでもいい。俺にとっても、あの野郎にとっても、重要なのは唯一つ。それ以外にないのだから。ただ――


(貰えねェってことは……ないよな……?)



 一抹の不安が頭を過る。もしそうなれば、あのふざけた浮かれピンク野郎に盛大に笑い者にされるだろう。これは強請ってでも手に入れなければ……。物騒なことを考えながら、俺は壁に掛けられたカレンダーに印をつける。少しでも、こういうイベントにはとんと縁のなさそうなあの女が、この日を意識するように。



*****

■フッフッフ……! お前が貰えずに、俺が貰える。そうは考えないんだな、鰐野郎?

2016.02

お題配布元:Heaven's
バレンタインで10のお題 Ver.2 より
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