拍手お礼SS集
□白妙の季節に君を想うということ
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→ver.アルバーナの皆様
「チャカさん! 教えて下さいお願いします!!」
「だから、知らないと何度言えば気が済むんだ……」
「えっ?」
「いや……何でもない」
三月に入ってからこの方、護衛隊の隊士達が入れ代わり立ち代わりやって来ては、皆チャカに同じ質問をしてくる。それはチャカの答えを、聞いてきた誰もが他に広めてはいない、ということで。
(きっと「その疑問」自体、隊士達の間で話題に出すことが憚られているのだろうな……)
国民達から送られてきた陳情書を読みながら窓の外を見れば、また、こそこそと辺りを窺いながらチャカの部屋へと近づいてくる隊士が一人。またか、と、チャカは深く溜息を吐いた。そこへ、コンコン、と部屋のドアがノックされる。
「開いている、入れ」
「チャカさん。少し、いいですか」
隊士かと思って声を掛ければ、入ってきたのは同じく護衛隊副隊長を務めるペルであった。まさかペルまで同じ質問をしてくるのではあるまいな、と頭を抱えると、ペルはきょとん、と首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。それで、用件は」
見れば、ペルの手にはたくさんの紙束が握られている。彼もまた、隣の部屋で陳情書の確認をしていたはずだが、その事だろうか。
「ええ、実は――これは西部地区から送られてきた陳情書なんですが……どれも『砂嵐の被害が酷い』ということと、『雨が降らない日が続いている』というものなのです」
「そんなに来ているのか? 異常気象だろうか……分かった、気象台に確認してみよう」
「お願いします」
不安げに眉を顰めるペルから陳情書を預かり、ざっと内容を確認していると、再びドアがノックされた。今度こそ、先程こちらへと向かってきていた隊士だろう。チャカは小さく溜息を吐く。
「開いているぞ」
「し、失礼します!」
隊士は緊張した面持ちで部屋に入ってきたが、ペルの姿を認めて、あ、と目を泳がせた。
「何の用だ、言ってみろ」
「えっと……その……」
「……? ああ……私はいない方が?」
「いや、構わん」
なかなか話を切り出さない隊士を見て、ペルが気を遣って部屋を出て行こうとするが、チャカはそれを制する。
「お前の聞きたい事が何だか俺には予想が出来ているし、その答えも決まっている。そしてそれはペルが聞いていても問題ないものだと思っている。さぁ、勿体つけずに言え」
「そうですか……では……。ミス・アニヴェルセル様の事なんですが、彼女に恋人がいらっしゃるのかどうかを、お聞きしたくて……」
やっぱりな。想像通りの言葉に、チャカはこの日何度目かの溜息を吐いた。
バレンタインデーの一件があって以降、どう見ても義理のそれに幻想を抱いた恋人のいない隊士達が、揃ってミス・アニヴェルセル様に懸想し始めた。警護で宮殿に詰めており、異性と関わりを持つことが極端に少なくなる環境にあって、彼女のような存在は貴重である。ミス・アニヴェルセル様の、隊士達全員に行き渡るようにチョコを配る心遣いなどは素晴らしいと思うので、皆を応援してやりたい気持ちは山々なのだが、恋人の有無までは流石に――
「え? いるでしょう」
「「何ィッ?!?!?!」」
ペルの何を今更、といったような口ぶりに、チャカと隊士の声が綺麗にハモる。そんな二人を見て、ペルは意外そうな顔をしてみせた。
「サー・クロコダイル様ではないのですか? あの方……初めて会食でいらっしゃった時に、私とミス・アニヴェルセル様が一緒にいるのを、『殺してやる』ぐらいの目で見てきたので、そう思ったんですが」
「そ、そうだったのか……? 全く気付かなかった……てっきり俺は、ミス・オールサンデー様というのがファーストレディだとばかり……」
「ああ、そういえば……どうなんでしょうね? すみません。今言ったことは忘れてください」
「「えぇっ?!?!?!」」
再び、チャカと隊士の声がハモった。あはは、と爽やかに笑うペルに、真面目だとばかり思っていた彼にもこんな一面があるのか、とチャカは驚き、つられて笑う。
その場で唯一人、隊士の男だけが、茫然とほろ苦い失恋に涙を呑んでいた。
*****
■この後、彼を通じてたくさんの隊士達が涙で頬を濡らすのでした。
2016.03