拍手お礼SS集

□白妙の季節に君を想うということ
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→ver.スモーカー



「ちょっと、スモーカー君!」
「あァ? 何の用だ」
「何の用、じゃないわよ。約束したでしょう? ヒナ唖然」



 勲章の授与式を終えた将校達がわいわいと喜びを分かち合う中、一人さっさと帰ろうとしたスモーカー。そのジャケットの袖を引いたのは、同期で今回同じく大佐へと昇進を果たしたヒナであった。約束、と言われてピンと来るものがなく、スモーカーは思案を廻らせる。ヒナはそんな同期の姿を見て、肩を竦めて溜息を吐いた。



「あ」
「思い出した? ヒナ安堵」
「いや、思い出せてはねェが……ちょっとお前に頼みたい事があったんだった。ついて来てくれ」
「えっ?! ちょっと!」



 禁煙だった式典会場を出ると、スモーカーは早速、葉巻二本に火を点ける。スタスタと足早に廊下を進んで行く背中を、ヒナは必死さを出さぬようあくまで優雅に、長いコンパスを目一杯広げて追い掛けた。





「……なぁに、ここ」
「……いいから、先に入れ」



 街へと出て少し歩き連れて来られたのは、およそスモーカーには似つかわしくない、可愛らしい外観の洋菓子店だった。背中を押されて先に入るよう促されたヒナが振り返れば、そこにはグローブを嵌めた手で口元を抑え、眉間に目一杯皺を寄せたスモーカーの姿。怒っているのかと思いきや、口元を覆った手の向こうには紅潮した頬が見え隠れしている。店の前に立てられた幟の文字も相俟って、ヒナは全てに合点がいった。



「成程ね……ヒナ理解」
「……煩い」



 確かに、この朴念仁にホワイトデーのお返しを選ぶなんて仕事は、賞金首を捕まえるより遥かに難しいでしょうね。そんな事を思いながら、ヒナはフフッと小さく笑う。



(それにしても、チョコを渡した日に飲みに行く約束もしたんじゃなかったかしら。ヒナ心外)



 ヒナが店のドアを開けると、カラカラとカウベルの音が鳴って二人を出迎えてくれる。いらっしゃいませ、と明るく言った店員も、ピンクのワンピースにフリルがたっぷり付いた白のエプロンという可愛らしい出で立ち。



(まぁ、こういうお店でお返しを選ぼうとするくらいだもの……きっととっても可愛い娘で、頭がいっぱいになっちゃったのね)



 この際、飲みに行くのはお返し選びを手伝ったお礼、という名目にしてもいい。何としてでもその送り主について聞き出してやらなくちゃ、と、ヒナは密かに心に決めてほくそ笑むのだった。



*****

■照れるスモーカーさんが書きたかった。

2016.03
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