キミといると温かいのがしあわせvv

□秋が慌てて駆けて来た
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今年の夏は、暑かったような、そうでもなかったような。
夕立って風情じゃあない大雨が多かったよね?
でもこのところはあんなもんじゃないの?と思わせるよな、
過ぎてしまえば掴みどころのないよな按配だった感があり。
西がそうだったように、連続してずっと暑い日が続いたわけじゃなく、
不意打ちみたいに過ごしやすくなったり、
災害に発展しかねぬレベルの“ゲリラ豪雨”に見舞われたりしたせいだろう。
そんなだった反動か、
暦の上での“秋”を迎え、10月に入ってもなお、
朝晩こそ涼しくなったものの、陽があるうちはまだまだ夏っぽくて。
半袖じゃないといられず、冷たいスィーツが美味しいなんて日が続いてて。

「だってのに、何だかいきなり寒くなって。」

10月頭の衣替えが早すぎ―とか言ってたものが、
今はブレザーの下にニット重ねる子もいるほどだとか。
コンビニで顔を合わせたフミちゃんとレイちゃんが言ってたと、
相変わらず、コンビニ好きで 女子高生と仲のいいイエスが告げたのへ、

「そ、そうなんだ。」

そのどっちへも苦笑を誘われてしまったブッダだったりし。
自分の知らないところで
誰とどんなこと話しているのかへ、
それも恋心からのこととはいえ
ついつい焼きもち焼いた末、
ちょっぴり切ない想いを抱えてしまっていたけれど。
それじゃあいけないと重々反省してのこと、

 “うん。負けないぞ。”

お値打ちだった柿を買ったので、それを使ったタルトを作ろう。
よく練った寒天で表面をつやつやにおおったのがイエスは好きだもんね。
シロップを染ませてコンポートにしてもいいかな?
バニラアイスと合わせたら美味しいんだよね…なんて、
自分の胸の前あたりでこっそりと、
きれいな手をぐうに握って負けるもんかなんて意気軒高だったりし。

「…わ☆」

乾いた陽射しは明るいけれど、
時折 街路樹をわさわさ揺らして吹き抜けてゆく風は
不意を突かれると思わず“ひゃあ”と首をすくめてしまうほど
結構な存在感のあるそれで。

「さすがにこの何日かは、
 朝晩の気温も結構下がっているものね。」

女子高生のお嬢さんたちみたいなお元気な人たちでも
防寒へ走っているほどなのだから、
暑い寒いへのハードルが低めのヨシュア様なぞ、
ジョギングへ出ようとする伴侶様を
布団の中でぎゅむと抱え込んでなかなか離してくれない朝もあったりしで。

 “何を引き合いに出してますか。/////////”

おっと、場外の声もきっちり拾われましたか、すいません。(笑)
駅前近くの賑わいから離れ、住宅街の中通りへと足を運べば、
どこのお宅から聞こえるそれか、
テレビの中からだろう賑やかしのお声も どこか侘しい昼下がり。
庭木に なってた実をついばんでいたものか、
ばささと飛び立つ小鳥の気配を、見えないままながら見送って、
人通りもない中、ほてほてと帰宅する最聖のお二人。

「あ、そういえば。」

今日は野菜の売り出し日だったので、
二人が抱えたトートバッグも結構な膨らみよう。
白菜やかぼちゃをたっぷり入れて、
小麦粉練ったお団子も入れた“団子汁”を作るよと、
寒い晩にはぴったりな献立、家を出る時から宣言していたブッダだったが、

「出がけに一旦戻ったのは何かあったの?」

そんなして準備万端で出たはずが、

 『あ、いっけない。』

アパートから数歩も離れぬうち、
何をか思い出したような声を出したかと思うと、
すぐ戻るからと言い残し、
たかたか一人だけ二階の部屋まで戻って行った如来様。
別に荷物にも変化はなくて、
テレビとかつけっぱなしだったのかな、そうじゃないかと気になったのかな、
案じるような顔をするイエスへ、なのに何も言わないまま、
さあ行こうねと歩みを進めた彼であり。
我が家に近づいてから思い出したくらいで、
その後も深刻そうでなかったには違いなく、

「何でもないってvv」

ふふふと朗らかに笑うばかりの釈迦牟尼様なのへ、

「???」

こちらは今になって気になってしまっておいでのイエス様。
それでも足を止めるまででもないものか、
ステップを上がり、短い廊下を進んで、自宅のドアの前まで辿り着く。
自分の鍵をパーカーのポケットから取り出して、

「たっだいま〜vv」

いつもの習い、
中には誰もいなくとも待ってたお家へ向けてのお声をかけて、
そのまま踏み込んだ狭い上がり框で、
かかと同士をすり合わせ、ごそごそとスニーカーを脱ぎ始めたイエスだったが、

「…え?」

出掛ける時は背中を向けてたせいもあり、
特に気を留めもしないでいた六畳間が、
なんかちょっぴり 様変わりしてはいませんかと気がついた。
あんまり得意じゃない“間違い探し”のリアル版。
でもでも、これはあまりに判りやすくって。

「…あ、こたつだっ!」

片付けるほどでもないと出したままだった卓袱台と入れ替わり、
それがあった同じ場所へ、
ちょっぴりレトロな柄もお懐かしやの布団をまとった
冬の必須アイテム様がお帰りと二人を待ち受けておいで。

「え? でも、これって…。」

自分たちが出かけている間に勝手に押し入れから出て来たはずはなく。
誰かが結構奥の位置から引っ張り出した結果のはずで。
文字通りの“まろぶように”という格好、つんのめりかかりつつ上がってったイエスが
コタツの傍らでそこへはたと気がついて、

「〜〜〜〜。あ・そっか♪」

ほんの一呼吸ほど考え込んでからバッと勢いよく振り返った先には、
端正なお顔の口許を、柔く握ったこぶしで隠して、
吹き出しそうなの何とかこらえておいでのブッダが立っているわけで。

「これ、引っ張り出しに戻ったの? あんな短い間に?」
「だってキミったら、寒い寒いって一昨日から毎朝言ってるし。」

今晩もきっと昨日より気温も下がろう。
なので、どうせ出すならビックリさせてやろうと思って、

「布団は昨日のうちに干し出しといたしね。」
「あ、神社の落ち葉かきに行ってた時だね。」

それだとて、一緒に出掛けたはずなのにね。
きっと後から部屋を出たそのわずかな隙に窓辺へ広げて、
帰ってきた折は先に上がって、サササッと神速の早業で片付けたに違いなく。

  なんてまあまあ、至れり尽くせりな“どっきり”があったもので。

「言っとくけど、まだスイッチは入れちゃだめだからね。」
「うんっvv」

季節の変わり目に毎回つきものだとはいえ、
新しい物のお目見えには ついついはしゃいでしまうヨシュア様。
そして、そんな屈託のない笑顔を観るのが嬉しい釈迦牟尼様と来て。
この秋がどんなにせっかちでも、次に訪のう冬がどれほど寒くなろうとも、
何芋心配は要らないお二人であるようでございますvv



   〜Fine〜  16.10.12






 *団子汁というのは、主に九州で食べられているメニューで、
  小麦を練って熱い中へ投入し、
  お団子状の具にして食べます。
  すいとんみたいなといえば判りやすいかな?
  里芋やごぼう、しいたけににんじん、
  白菜やネギに、豚の薄切りやも入って、
  鍋に匹敵するよな食べごたえのある献立で、
  味噌で作るお宅が多いようですが、
  ウチの団子汁はけんちん汁風、お吸い物ベースです。

  それはともかく。
  お久し振りでございます、帰ってまいりましたvv
  甘い甘いお話への勘はなかなか戻らずで、
  こんな短いのでも結構時間がかかりました。
  睦まじいばかりの平和なお話でも
  書くのにはそれなり馬力が要るんだなぁ、うんうん。





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