キミといると温かいのがしあわせvv

□秋の甘いのvv
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暦の上で、どころじゃあないほど深まってもなお、
酷暑だった夏の名残のような
暑い暑い日々がうんざりするほど続いたが。
さすがに10月も終盤に差し掛かり、
朝晩だけじゃあなく昼の間も
上着がないと心許ないような風が吹くようになってきて。

「わあ、綺麗だねぇ。」
「うんうん。」

コスモスが咲き乱れる広大なお花畑や、
楓や桜、辛夷などなど、紅葉も鮮やかな山の錦、
はたまたその見事さが著名な街路樹の
銀杏やポプラの濃密鮮烈な色づきが、
天気予報のコーナーなどで中継される頃合いとなった。
秋といったら…と話を振れば、
スポーツだの芸術だの、色々なことが後へと続くその由縁、
蒸し暑さも少しずつ去ってゆき、
風も乾いて、気候も良くなると来て。
過ごしやすい夜長に読書に耽るもよし、
遠出するなど思い切り体を動かしてもよし。
学生さんには体育祭や学園祭の時期でもあろうし、
そういった行事からは卒業した顔ぶれ、
出不精だから行楽にも縁がないという人であれ、
これには関心も向こう “実りの秋”でもあったりし。

「コスモスに木の葉の色づき…っていうこの時期は、
 ハロウィンもだけれど、
 いろんな作物の結実を喜ぶ頃合いでもあるものね。」

イエスの言いようへそうそうと頷くブッダが
つい先ほどまで手掛けていたのが、
先週末に町内会の催しとして足を運んだ栗園で、
拾いに拾った大粒の栗の皮むきだったりし。
栗園の人から聞いた、
外の皮だけ剥いた状態で素揚げにするという食べ方も試してみ、

 『うわ、なにこれ。』
 『凄いね、甘さが濃くなって。』

新種のスィーツみたいな美味しさに、
危うく栗ごはんのための取り置きまで揚げたくなる誘惑に襲われかけたほど。
食べるものへの欲に負けかかるほど、
釈迦牟尼様を揺すぶった日本の栗ってなんて恐ろしい。(こらこら)

「万葉集でも歌われているほどに、
 栗は随分と古くから食べられているらしいよ?」

稲作が始まる前より、食べられる貴重な木の実として
古代集落からも化石が発見されているという話だしと、
彼らにはお馴染みの例の植物園のホームページにも
そんな解説が出ていたくらいで。
しかも、

「樹を揺すったり梢まで登ったりして取るのかと思ったら。」
「食べごろになると落ちる、なんてねぇ。」

マンゴーや梅もそうだけど、潔い実だよねぇと、
世界三大宗教に数えられられるほどの教祖らが唸っておいでだが、
それもこれも植物ならではのしたたかな戦力だという説もあり。
その群生を広げるために、美味しい実をつけ他の生き物に食べてもらうのであって、
一つところにばかりぎゅうぎゅうと密集して増えれば
下手を打つと一度の災害や天変地異により滅びる恐れもありますものね。

 まま、そういった穿った考えようは
 神聖な宗教にはあらざる解釈なので、
 始祖様たちが気付かなくとも問題はなしだとして

ハロウィンにはかぼちゃが付きものだが、日本では夏が旬。
滋養のある実でありながら 冬までもつことで
冬至にも厄除けにと食べられているほどではあるけれど、

「せっかく美味しいのが旬なのだから、柿を推してもいいのにね。」

色合いも似ているのにねと、
丁度ブッダが丁寧に剥いてくれた甘い瑞々しい実、
いただきま〜すと口へ運ぶヨシュア様がそんなお言いようをしたのは、
馴染みの八百屋さんがこぼしていたからで。
バナナやみかんに続き、リンゴやブドウも
若い人が食べなくなったという声が聞かれる果物業界だそうで。
こういう甘くてジュ―シィなのがお好きそうな若いお嬢さん方も、
スィーツで食べればいいと構え、
生の新鮮な果実の売れ行きには貢献してくれてない。
その理由は“皮を剥くのが面倒だから”と来たもんで。
…柿やりんごはともかく、
バナナやみかんはそれほど難しくないと思うので、
単なるずぼらだな、キミたち。(う〜ん)

「かぼちゃと同じ橙色なんだし、可愛いのにね。」
「コンフィチュールとかタルトとか美味しいのに。」

堅いうちはカリリという歯ごたえもまた美味しい食感、
ちょっと待った熟し加減によっては、
天然のスィーツのような甘さが濃くなり、
それがいいとわざとに待つ人もいるほどで。

「堕落とまではいわないけれど、
 ほらもっと美味しいよと仕立ててくれる人の努力が進んだせいでの
 皮肉な結果なのかもだねぇ。」

手元を見下ろすのにだろう、やや伏し目がちになったブッダの声に、
そうだねぇと苦笑しかかったイエスじゃあったが、

 “……わぁ。///////////”

これはまた、思わぬ眼福だなぁと、
甘い線で縁どられた目許やふっくら優しい輪郭の頬、
それらにほのかに含まれている微笑のまろやかさを眸にし、

 “こんなに慈愛と甘さに満ちたきれいなの、
  私一人で独占できるなんて幸せだなぁvv”

口許近くまで持ちあげた柿の実で
ほころびかかる表情をつい隠してしまった晩秋の午後でございます。




   〜Fine〜  16.10.12






 *もしかしてこちらのシリーズのどこかでも
  うっかりそんな記述をしていたかもですが、
  ハロウィンはキリスト教の行事ではないので念のため。
  年に一度 聖者が冥府から解放される日の前の晩、
  そのどさくさに紛れて悪い亡者まで放たれてしまうので…と来て、
  宗教がらみな行事なんだと誤解されやすいのでしょね。

  「私どもとしては、イースターこそ広めたいほどですからね。」

  ペトロさん辺りがため息ついてそうですが、
  そのくせ、日本でお祭り騒ぎになってるハロウィンには興味津々かもしれず。

  「…天部の皆さんが、
   キミの誕生日が豆まきより認知されてないのを嘆くのが判る気がする。」

  クリスマスだって、私の誕生日だと祝ってくれる人は稀だしねぇと
  寂しげに笑うヨシュア様なのへ、

  「いやあの、豆まきよりっていうのはどこ調べなのかな?」

  困惑する如来様だったのだった。……あ、これではネタか。


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