キミといると温かいのがしあわせvv

□ほっこりしましょvv
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さすが“立冬”が過ぎての11月で、
朝晩の冷え込みもぐんと増し、
こたつだストールだと急な寒さの訪れに、バタバタしちゃった月の初めだったけど。
一転、次の週末は。秋物のコートでも着ていると汗ばむようないい日和が立て続き。
楓や桜の紅葉を観にと、ちょっぴり遠出をしたところ、
何だか汗をいっぱいかいちゃった、微妙な晩秋だったりし。

「晩秋?」
「だって、初冬という風情じゃあないじゃない。」

ちょっとした丘のような自然道をゆくハイキングコースへ赴いたものの、
秋の錦が売りの楓も、まだ緑のところが多く残りつつの
黄色から赤へのグラデーションがきれいな状態のが結構多くて。
それこそ諸行無常とでもいうものか、移り変わりの象徴みたいで趣きはあったけど、
もっと鮮やかな紅が 閑とした寒空にきりりと冴えて美しいところとか、
眩いほど弾けんばかりの黄に色づいたイチョウの葉が
一面に敷き詰められたような風景を予想していたら、
もうちょっと待っててねと言われたような、肩すかし感があり。
まま、身を縮めて耐えねばならない寒さの中でないことは、
むしろ喜ばねばならぬ幸いかもで。

「そっか。そうだね。寒いのは私苦手だし。」

とはいえ、正直言ってこれからは油断がならぬ時期でもあって。
例えば一雨ごとに気温も下がろう。
今日も午後から雨だというから
今の今、少しぬるい気候なのは、それで湿気があってのことかも。

「そういや、天文クラブの人からも、
 今宵のウルトラスーパームーンは観測できないかもですねってメールが来てたね。」

月の軌道が地球へ近づく間合いなため常より大きく見える満月のことを
“スーパームーン”と呼ぶのだが。
今宵のはそれだけじゃない、
その距離が何と68年ぶりというほども間近になるとか。
でもでも午後からお天気が怪しいとあって、
夜更けの23時ごろという見頃は雲に覆われてしまうかも。
ご町内の天体ファンらで作った連絡網へ一応名を連ねていたブッダのスマホへも、
それを見越してだろう、そんな連絡が入ってたようで。
ここ数日は宵の口にそれは綺麗でくっきりした月が観れてたのに
ちょっと残念だねと紡ごうとしかかった間合いに先んじて、

「え? そうなんだ。今日だった。」

え?の後のイエスからのリアクションが、ブッダへついの苦笑を誘う。

「…イエス、忘れてたんだね?」
「うん、ごめんなさい。」

イエスだとて、星空や輪郭の冴えた月を観るのは大好きで。
愛しい人の温もりが傍らにあれば どんな冷え込みも大丈夫だからと、
流星群とか観に行くの、ワクワク楽しみにしているには違いなく。

 “ま、こういううっかりは いつものことだし♪”

私たちの場合、
ちょっとズルいけど意識だけ浮遊させて
雲の上まで駆け上がるという手段もなくはない。
だから、問題なのは夜更かしの間、何して過ごそうかってところかと。

「今夜はそれほど冷えはしなかろけれど、
 それでも小腹が空くかもしれないから何か作っておこうね。」

夏場は冷たい飲み物やアイスが大きにお目見えしていたが、
これからの季節はといえば、
温かいスイーツを作ってあげられる。
フォンダンショコラとか、パンケーキとか、
ぜんざいにフルーツグラタン。

「かぼちゃのパイに、そうそうぐんぐんと膨らむスフレケーキも挑戦したいな。」

ワッフルに餡子を挟んで和風ワッフル、若しくは洋風三笠ってのはどうだい?

「静子さんに聞いたのが、
 餅とチーズを春巻きの皮で巻いて揚げるっていうスナックで。」

揚げたてをすぐに食べないと、お餅が堅くなっちゃうそうだけど
ケチャップやディップを付ければ猫舌のキミでも大丈夫だと思うよと、
今はまだ明るいお部屋にて、お夜食の相談を広げれば、

「あ、それって面白い♪」

と、イエスも途端に表情を和ませる。

「パンプディングも美味しいよ?」

フレンチトーストみたいに、牛乳で溶いた卵液に浸けたパンを、でもオーブンで焼くんだ。
表面がカリッとなって、
バターで焼くフレンチトーストとは食感が微妙に違って美味しいんだって…と。
イエスが女子高生や子供たちと仲良しならば、
ブッダは近所や商店街で奥様達とのお料理談議に引っ張りだこの身。
練達の知恵から今時のおやつまで、
こういう情報には事欠かぬらしく。
ただ、ベジタリアンなので素材に微妙な制限があるのと、

「焼きリンゴは…駄目か。」
「うん、美味しそうだけど、私なんか酔っ払っちゃうみたいだし。」

これからが旬で、しかも年によってはお値ごろな素材だが、
罪な知恵をアダムとイブへ植え付けた逸話から…どう影響されてしまうものなやら。
食べちゃったイエスはどこか理屈っぽいキャラに変化してしまうので、
(しかも自覚がないというか記憶が残らぬらしいので)
ブッダとしても要注意食材となっており。
 *ジャムにして食べたとか言ってなかったっけ? 焼きリンゴもだめなのかな?
そういう点もしっかり把握しておいでの、頼もしいマエストロ。
今だって、お茶菓子にとこたつの上へ持ってきたのは、
作り置きのスイートポテト。
この時期のサツマイモはなかなか重宝だそうで、
甘煮にしてよし、天ぷらや炊き込みご飯にしてよし、
スイートポテトを作ったときに出る皮も自家製かりんとうにしてよしだとか。
しっとり甘いおやつをミルクティーでいただいて、
カボチャも美味しい、チョコも合うしと、
見た目30代のお兄さん二人が、
女子高生みたいに甘味の話で盛り上がるのが何とも平和。
とはいえ、そんな彼らには彼らなりの思うところもあるようで。

「…あのね? イエス。」

ふと。
きれいな白い指先で、マグカップの縁をなぞりつつ、
色白な釈迦牟尼様が小さな声を出し。
んん?と精緻な彫の印象的なお顔をやや傾けて、
なんだい?とヨシュア様が目顔で問い返せば。
えっと、あのあのと
切り出しにくそうに躊躇したのも一刻のこと、

「…っ。///////」

えいっと思い切ってか顔を上げ、
それでも目と目が合うとぱぁっと判りやすく真っ赤になりつつ、

「あのね?
 私より美味しいスイーツやパンケーキを作れる人が現れても…あのその…、」

思い切って紡ぎ始めた云いようは、
彼にしてみれば胸の内で悶々と転がさなくなっただけ大した進歩。
そうだとちゃんと判っておればこそ、

「そんな人がそうそう現れるとも思えないけど、うん、大丈夫。」

言いきることが適わなかった後半もちゃんと掬い取り、

「ご飯やデザートに釣られたりなんかしませんたら。」

心配性だなぁと呆れたりせず、案じないでと ほこりと笑ったイエス様。
切れ長の目許を柔らかくたわめ、何とも頼もしいやさしい笑顔を見せたそのまま、

「ブッダこそ、私より美味しそうに、幸せそうに食べてくれる人がいたからって、
 逆刷り込みされちゃわないでね?」

私としては、慈悲深いキミのそういうところが心配だと、
お返しのように言ったものだから、

「うう…しませんたら、そんなの…。」

救済と甘やかしは別物ですと、いやそこまでは自覚もないだろう、
大切な大好きな恋人への甘え甘やかしモードのまま、
ちょっと膨れて見せた辺りは、大きな進歩の如来様。
この冬がどんなに冷え込もうと、こちらは大丈夫なようですよvv



   〜Fine〜  16.11.14






 *イエスのお父さんじゃあるまいし。(苦笑)
  微妙に新刊にまつわってるネタですいません。
  でもでも、
  この二人だとどうしても“美味しいものを食べさせてあげたい”という話になるのは、
  ウチでも“母と子”型のお二人だからでしょうか?(う〜ん)



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