キミといると温かいのがしあわせvv

□こじつけちゃっても いいじゃないvv
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日本にはいろいろ様々な“記念日”があふれており、
宣伝に使うのが目的なのだろう、あやかりや語呂合わせで作られたものが大半だが、
それとは別に、季節の折々にやって来る二十四節気というのがある。
立冬とか大寒とかいうアレで、
1年を通じて四つの季節が 風に運ばれ順繰りに巡る、
情緒豊かな国なればこその、趣き深い暦とも言えて。
例年にはない級の豪雨とか猛暑とか、
気温の乱高下っぷりとかに翻弄されては
地球温暖化による異常気象を囁かれていても、

「不思議と節季が来ると
 それなりの季節感ってのもやって来るところは変わらないんだからねぇって
 松田さんも感心したように言ってたし。」

「そうなの?」

最聖二人が住まう小さなアパートの大家さん、
それは気丈夫な松田さんの言うことなら、
人生上の経験値も高そうなのでまずは間違いなかろうこと。
仏教の開祖として二千年紀以上を過ごしてきたブッダでも
此処、日本の“あるある”には疎いゆえ、
夫人のお言葉からはいつもお勉強させていただいており、

「どんなに暑い夏でも秋の節気が来れば、
 朝晩は涼しい風が吹いたり草むらから虫の声が聞こえて来たり。
 今時分だと、
 いよいよの寒の入り以降、そりゃあ寒い日々だけど、」

それでも早朝の街を毎朝の習慣だからと走って来たらしいブッダが、
こちらもある意味では毎日の習慣、
しっかり朝寝坊したイエスが布団の中から顔だけ出して話を聞くのへ、
ほらと差し出したのは自分の手のひらだったが、

「あ…。」

柔らかく開かれたそこから ほのかに香るものがある。
手套をしていても凍るように寒かったのだろ、
指先がほんのりと赤いが 頼もしくも優しい造作のその手には、

「無理強いして握り込んだりはしてないからね。」
「うんvv」

こんなことに使っちゃあいけないかなと思いつつ、
ちょっとだけ神通力を引っ張り出して、
可憐な存在の周囲に漂う芳香をお裾分けしていただいた。
誰かの俳句で 寒に耐えて咲くと詠まれた花、
ご町内の至近に在する神社自慢の紅梅のまとっていた、
それはそれは甘い香りが宿っていたのである。

「もう梅が咲いてるの?」
「うん。神社の境内の西側のだけどね。」

鳥居のある南側じゃあないので、外を通るだけでは気づかれない場所。
でも、日当たりが良いせいか、結構早くから蕾は沢山見受けられていたそうで。

「これからこそ寒くなるのに、
 新春とか迎春とかいう言い回しをするのが何となく判るなぁって思った。」

まあ、本当のところを言うと、
昔の暦での年度代わりは もちょっと後へズレるので、
元旦にしても初午にしてもイマドキよりずっと春に近かったのではあるのだが。
青くも初々しい“春”という季節を新年の頭に持ってくる国民性へ添うように、
春の兆しを匂わせる小さな花の頑張りを見るにつけ、
ブッダとしては “おおそうか、春は近いのか”と感慨深かったらしいのだが、

「っていうか、ブッダのジョギングのコースって、そうまで入り組んでるの?」
「う〜ん、時々思いつきで回り道とかしちゃうからねぇ。」

ご町内や大川の河川敷とかならまだ想定内。
時々とんでもないところまで入り込んでは、
こんな花が咲いてたとかこんな小鳥がいたとかいうお土産話をしてくれて、
頭の中へ地図を描くのがちょっと苦手なイエスとしては、
このごろでは話半分に聞き流し、
随分とあとで “あ、ここってブッダが言ってたところかも”なんて
追認識していたりする辺り。

“感覚がグローバルなままというのも考えものかも。”

国と地域は網羅できていてもご近所では迷子になるよなもんで。
そういや欧米の大雑把な感覚をいつぞや注意されたよななんて、
さっそくにも思考が迷走しかかったイエスが、
とはいえ…と、現在位置へやすやすと戻ってこれたのは、

「……。////////」
「? なぁに?」

自分の布団は先に畳んでしまい、
今はイエスの横たわる布団の傍らへちょこりと正座しているブッダなのへ、
う〜んとえっとと、掛ける言葉を今の今さがす。

 あのね、耳たぶやほっぺ冷えてない?
 少しね。でも今はじわじわ温かくなってるところかな?

どらと、無造作に伸ばされた手が、
寝起きのイエスの小さな声をよく聞くためにと
少し屈み気味だったブッダの頬をするりと包み込む。
指の長い手は、ほのかにぬるく、
冷え切ってた反動で暖かくなる途中の頬が、
でもまだ表面はずんと冷たいのをブッダ自身へも再認識させるほど。
そんな冷えようだったので、
イエスもまた“ひゃあ冷たい”と驚いたように離すかと思いきや、

「……。」
「いえす。///////////」

あてがったそのままじっと動かない。
見上げてくる双眸はいつもと同じで玻璃のように淡く透き通っていて、
何の表情も浮かべはしなかったが、
ややあって口許や目許がゆるい弧を描く。

「さすが、寒のうちだなぁ、寒いだろ。」
「はい?」

何ならお布団に入る?と
胸元の毛布を浮かせながら冗談めかして言いだすものだから、

「何言ってるの。」

そこは無下にもお断りを入れ、
朝ごはんを並べたいからこたつ出そうよと、
とっとと起きなさいと暗に言い返す如来様。
そのまま踵を立てて立ち上がる所作も、
流れるように美しかったものの、

「…おとと。」

六畳間とキッチンスペースの板の間との境、
何もないも同然のところでちょっぴり躓いたのがどうしてか。

 “せっかく寒いんだから、いつもくっついてっていいんだのにね。”

生真面目だからか、それとも
まだまだ含羞みがすぐにも沸き立ってしまうの、
何とか隠すのでいっぱいいっぱいか。
せっかく身を寄せあう口実に出来る寒さも、
ブッダには苦行にしか結びつかないのかなぁなんて。
そうは思っても口許には
やんわりとした笑みが浮かんで仕方がない
イエスだったのでありました。




   〜Fine〜  17.01.26







 *お寒いですね、毎朝。
  洗濯物がベニヤ板になる冷え込みの中、
  負けるものかと頑張っておりますが、
  最聖のお二人って、
  苦行ではなくの神通力系とかで
  寒さや暑さをしのぐ術、持ってらっしゃりはしないのかなと、
  ちょっと思ってしまいましたの。
  ああでも、持ってはいても使いはしないのかな?
  他人への救済以外では。
  なので、日本のキンとしばれる冬には、
  ねえねえ暖まろうよぉなんて
  イエス様から甘え倒したらいいのにとか思いますvv


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