キミといると温かいのがしあわせvv

□春ですねvv
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キミといると温かいのがしあわせvv

“春ですねvv”

もうそういう頃合いなのか、
まだちょっと朝晩寒いのでなかなか片づけられないコタツから
布団の裳裾、少しも乱しもせず手際よく立っていった彼で。
くわんという軽い金属音がかすかにしたのは、
アルマイト鍋の蓋を開けたから。
冷蔵庫をバタッと開けて、
その前へかかとを立てての姿勢を低くしかがみ込み、
どうしたらそうなるの?と若い奥さんに訊かれてた、
全然えぐみも青臭さもないフキの薄味煮の鉢と玉子を取り出す。
あとちょっとだけ残っていたの、つゆごと小鍋に移して玉子でとじて。
その傍らで、ザクッザクッっていう小気味のいい音がし始めたのは、
大根の葉っぱの浅漬けをまな板の上で刻んでいる音。
温め直している昨夜の大豆ミートの揚げたの、
フィーチャリング甘酢あんかけもほのかに香って、
お昼ご飯の時間が近いぞと、
PCを開いて何やらタイプしているイエスへも告げてくる。

 “…いいなぁ、こういうの。”

何て言葉を交わすでない。でもねあのね、
一緒に食べるイエスへと、これもこうしたら食べてくれるかなとか
いろいろと考えもって手を尽くしてくれてるブッダで。
ふと、傍らの畳の上へ落ちていたやわらかい日差しの四角い枠に気がついて、
そこに揺れる小物干しの影には、
二人分の靴下やトランクスと並んで干し出された
下ろしたてのチェックのハンカチの四角が下がっており。
何てことない持ち物だけれど、
新しいのを下ろすのってドキドキしない?って訊いたら、
ブッダも うんって、小さく微笑って頷いてくれた。
昨日までの1週間ほど、
商店街の雑貨屋さんで恒例のアルバイトをこなしていたイエスであり。
『R-2000』の春の号の原稿に
かかりきりになってたブッダを残してというのは心配だったけど、
忙しいのでぜひと請われたのと、春を前にし自分の懐ろ具合がやや心配だったので、
断り切れずに引き受けちゃってて。
そんなお出掛けのため、新しいハンカチを下ろしたイエスだったのだけれども、
それも今日は持って出る必要がない。

 “ねえ、私がいない時、ちゃんとお昼ご飯食べてたの? キミ。”

人のお弁当はこさえたくせにね。
適当にお結びで済ませたり、
区切りのいいところまで手が離せないからって、
どうかすると食べなかったりしてたでしょ?
私が気付かないと思っていたらばそれは浅はかというもので。
あ、釈迦如来様へこんな不遜を言ったらいけないかしら。
でもね、商店街までのお買い物にあんまり来なかったし、
出かける私へも“じゃあこれ買って来て”なんて頼まなかったキミだったから。
いくらなんでも食材が足りるはずないでしょって格好で
すぐにも気がついちゃったもの。
ダメだなぁ、独りにしちゃったら心配だなぁ。
だから私、することなくても家にいるんだよ、なんて、
ちょっと筋違いなことへ胸を張ってみたりする。
もしかしてそれって“ヒモ”と紙一重じゃないですかなんて、
ツイに書かれて意味が判らなかったりもしたけど。

「…す、イエス? 寝ちゃったの?」
「え? あ、ううん。」

ああしまった、
うっかりぼんやりしすぎて、舟をこいでたみたい。
これからどんどん暖かくなってくんだよねぇと、
転寝したっても無理ないと、
お昼ご飯のあれこれ、こたつへ並べ始めながらやさしく笑うブッダなのへ。
PCや新聞やを片づけながら、
そうだねなんて白々しく相槌を打ち、

「あの、あのね?
 お花見に行こうって話、竜二さんから聞いてるんだけど。」
「あ、そうなんだ。もちろん行くよね?」

1も2もなく賛成と目許を弧にするの見やって、
今年の桜はちょっと早いらしいから、
君のお誕生日より前に盛りを迎えそうだという感慨はでもナイショ。
贈り物を考えつつのお花見もいいかなと、
やっぱりとろとろしかかる、春先のイエス様だったのでありました。



   〜Fine〜  17.04.03







 *お久し振りにもほどがある更新です、すいません。
  章のくくりが秋のままなので、さすがに新章とした方がいいかなと思いつつ、
  でもでも、さほど数を構えてないのになぁとぐずぐずしております。
  そんなこんなで、いくらなんでも もう春ですよね?という
  取り止めのないお話を一席。
  春休みとか関係ないけど、
  関係ないからこそ まったりに拍車がかかってるダメダメな私と
  畏れ多くもイエス様とを同類にしちゃった罰当たりです。


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