キミといると温かいのがしあわせvv

□お盆まで●●日を数えて
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この夏はいきなり駆け込んできたといい感が強くて、
それでも豪雨災害の多かった九州地方や
猛暑日&熱帯夜の記録更新中という関西地方に比すれば
こちらなぞまだまだましな方なはずだというに、

 『ブッダ、冷風扇が涼しくない。』

維持費がかかるエアコンなんてものは到底置けぬ、
とはいっても、ファミレスや図書館、
マンガ喫茶やカラオケボックスで避暑というのも限りがあるし、
何より夜半の蒸し暑さは、そんな時間帯に外出する習慣がないがため何ともし難く。
そんな窮状を打破せんと、
エアコンよりも安価で維持費も扇風機級という
冷風扇なる画期的なアイテムを買い求めたのが数年ほど前。
エアコンのように部屋中を冷やすわけじゃあないけれど、
生ぬるい空気を掻き回すだけの扇風機よりはずんと涼しい優れもので。
暑い寒いへのハードルが殊更に低いイエスには正に救世主となったほどだったのだが、
それがこの夏、いきなり駄々をこねるよに不調を示し、

 『う〜ん、トリセツにもないよ、この症状は。』

仕組み的には単純な仕様のブツなためか、
説明書の冊子もほんの数ページという薄さで、
しかも“故障かな?”という解説は見開き分しかなく。
これ以外の状態はメールまたはお電話でお客様センターまでとなっている。
問い合わせに数日費やし、それから修理というのも時間が掛かろう、
そういえばこれを買い求めた量販店にもそういった相談コーナーがあったようなと思い出し。
買った折も自分たちで持ち帰って配送サービスは受けなんだそのまんま、
力自慢のブッダがひょいと提げる格好で当該店まで持って行って
働き者の“冷風扇”くんの不調の旨を説明し、
運よくベテランのお方が居合わせた万能修理マン様の診断を受けたところ、

「う〜ん。
 故障したのはここの主モーター部分なんですが。」

人の良さそうな職人さん風の担当さんは、
裏面をぱかりと開いた冷風扇くんの送風機能を担当するファンのモーターを差してから、
指示棒代わりにしていたドライバーの先をすぐ傍らの別なところへずらすと、

「ただ、こちらのフィルターを送るモーターもちょっと消耗が激しいようなので、
 もしかして間をおかずに止まるかもしれないんですよね。」

冷風扇というのは、水の気化熱を利用して涼しい風を吹き出させるようになっており、
その気化熱を生むための濡らしたフィルターをぐるぐると回す機能の方も怪しいと仰せで、

 「ユニットごと交換した方が
  二度手間にはならないとは思うのですが、そうなると費用の方が。」

そこまでの修理となるとここでは無理で、修理センターに送っての作業となるので、
配送料と部品代と修理費と、と見積もっていただいたのが、

「…そうなりますか。」

これは微妙な金額ですよねと、
釈迦牟尼様の端正なお顔がやや曇る。
購入金額と同じとまでは言わないが、
それでもさすがは えいと思い切って買う家電品ならではと唸らせる金額で。
しかも、

「ブッダ、その値段ならそこにある去年の型落ち品がそのまま買えちゃうよ?」

専門的なことはよく判らないからと、説明はろくに訊いてはなかったイエスが。
手持無沙汰なままぐるりと周囲を見まわしていて気づいた決算商品。
彼が言う通り、型が古いというだけで価格を落とした品であるらしく、
そんな囁きが聞こえたのだろう修理マンのおじさんも深々と頷いた。

「そちらは展示品でもありませんから、正しく新古品で消耗もしておりません。
 修理保証も新しいのへの書き換えとなりますから、その方が今後を思えば…。
 あ・いや故障することを前提にしちゃあいかんのですが。」

セールス優先とかいうお店の方針からのお言葉ではなくて、
その方が合理的だろうと思っての奨励なのはようよう判るが、

「でもなあ…。」

診察を受けた態勢のままの冷風扇くんの姿を見やった、心優しき如来様。
毎夏ずっとずっと頑張ってくれていた健気なこの子を、
そんな理由で手放すのは何となく気が引けるのだろう。
それでなくとも、衣紋や鉢を修理して修理して使うという
もったいない精神の元祖的な修養を教えの中で普及させている開祖様、
使い捨ての奨励はちょっと気が引けるらしかったが、

 「今、修理に出すとどのくらいで帰って来るんですか?」

ちなみにとイエスが訊けば、
修理マンのおじさまはにっこり笑って、

 「そうですね、ああお盆を挟みますので1週間は。」

卓上カレンダーを見てそうと応じ、
それを聞いたイエスがおやまあと目を見張る。
エアコンの設置は即日中にというPOPが派手々々しくも貼られているが、
そちらのような目玉商品ではないから仕方がないようで、

「そっかぁ、じゃあ1週間は熱帯夜との我慢比べだね。」
「…買い替えましょう。」

たははという苦笑交じりなイエスの声へ やや食い気味な声が絞り出される。
数年とはいえよく働いてくれた先代冷風扇くんを、
腐女子よろしく擬人化して、頑張っていたのにと名残惜しんでいた釈迦牟尼様だったが、

 “あまりの暑さにイエスが引っ繰り返っては元も子もない。”

いやあの、決して、
熱帯夜となっては触れてもくれぬのではというのを案じたからではなくって//////と
一体誰へのそれなのか、懸命に言い訳をする誰か様なのへ、

 “周囲へは聞こえてないけど、私へはだだ洩れなんだよねぇ。//////////”

なんてまあまあ可愛らしいと、
こちらも内心で真っ赤になったヨシュア様で。

「では、こちらは下取りということで、2000円値引き致しましょう。」
「おおお。」
「最後の親孝行まで…。」

何とも尊い子だった先代と交代した
新品の冷風扇くんを仲良く連れ帰ったお二人のこの夏は、
無事に過ごしやすいそれとなったようでございます。



   〜Fine〜  17.08.08







 *お、お久し振りです。
  何と4カ月も空きました、季節はもう、暦の上では秋だそうで。
  何てことなかったような、でも家人は増えるわ小姫ちゃんは学校に上がるわ、
  あちこちリフォームするわと、お家のトピックスは結構あったし、
  私自身も妙なものにハマって性懲りもなくお部屋を増やすわで、
  凄いなぁ、怒涛の今年。
  そんなこんなで離れていたせいか、
  甘甘なこちらのお話にはなかなか手が伸びず、
  書いたと思やこんな話で申し訳ありません。
  いえね、うちのマッサージ機が5年目でいけなくなって
  同じようにユニット交換という大手術となったもので。
  最近の家電は壊れやすいなぁと母と愚痴ってました。
  前のマッサージ機は ん十年もったのに。


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