夜明けの時間。
□05,対面する時
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薄暗い部屋の中で、一人はドアの近く、もう一人はベッドの近くでナイフをハンカチで拭きながらこちらを見ている。
その眉間には皺を寄せて、いかにも不機嫌そうだ。
「あ、あの…」
その冷たい目に怯みながらも、
"叫び声が聞こえたので"
と言おうとして上体を起こして立ち上がった時だった。
飛び込んでくる光景に目を見開く。
そこには赤黒く染まったベッドの上に裸の男が血を流して倒れており、あろうことかアイシャの母親がその下敷きになっていた。
「ぇっ…お母さんっ…!?」
その目は見開かれ、涙が頬を伝っている。
そして彼女の上に覆いかぶさってるいる男もまた、恐怖を浮かべた表情のまま目を見開き、その首元、体からは血が流れていた。
「…なん、で…」
ほとんど聞こえないような声で呟く。
そろそろと腕を伸ばし、覆い被さっている男を退けようとするも重くて動かない。
「お母さんっ!早く帰ろ!お母さん!」
声をかけ、少し揺すってみるも彼女は瞬きすることなく、前を見据えているだけだ。
すると、近くに立っている男はチッと舌打ちすると、一言放った。
「死んでいる。」
突然の言葉に、その意味が理解出来ずに頭が真っ白になり、頭がくらくらする。
(…死んで、いる…?)
「おい、どうする?」
「面倒事は御免だ。さっさといくぞ、ファーラン。」
「おう。」
茫然とするアイシャの後ろで、男たちは窓へと手をかける。
飛び散ったガラスを踏むピキピキという音がアイシャへ届き、体内から溢れ出る何か熱いものが電流のようにアイシャの体中を駆け巡った。
「っ…あなたたち!」
先程まで静かだった少女が大声で叫び、男たちは顔だけアイシャの方へ向けた。
「あなたたちが…あなたたちが殺したのね!?」
アイシャは震える手を握り締め、俯いたまま言葉を続ける。
「許さない…」
「…おい、」
先に窓へ手をかけている男へ、後ろの男が声をかけるが彼は黙ったままアイシャを見ている。
「…絶対に、絶対に許さないんだから!!」
アイシャは言葉と同時にキッと顔を上げ、二人を睨めつけた。
その目からは涙がボロボロと流れているが、鋭い目つきは男の目をしっかり睨んでいた。
そして男たちもまた、その目を静かに見つめていた。
「…行くぞ。」
「はいよ。」
両手を握り締め、わなわなと震えて睨めつけているアイシャを尻目に男たちは窓の外へ消えていく。
パシュッ――
静かな夜に、空気を抜けていく音が響いた。
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