夜明けの時間。

□07,駆ける風
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ひゅう、と風が吹きアイシャの髪を揺らす。
アイシャは地下街の少し高い家屋の屋根に座って、ぼーっと下を見下ろしていた。
今日もこの街は薄暗い。

あの決意の日から月日は経ち、アイシャの顔つきは少し変わった。
あどけなさの残っていた顔は大人び、憎しみの知らなかったその目はどこか深い闇を灯していた。

ペッと唾を吐く。
あれから色々と情報を得ようとした。
その為に自分が、または知らない人が犠牲になった。
わかったことと言えば、あいつらが窓から飛び立ったのは立体起動装置なるものを使ったということ、またそれは巨人を退治すべく訓練を行った兵士のみが所持を許されるものであった。


…だとすれば彼らは兵士?


とも思ったが、それはどうやら違った。
何故ならば、この混沌とした地下街の更なる混沌を招かぬよう"憲兵団"という組織がいると知ったからだ。
本来は地上内地での警察業務、また王の親衛が主な仕事らしいが、こうして無秩序になりつつあるこの地下街にもその見張りの目が届くようになった。

そんな憲兵がわざわざ人を殺める為に地下街に来る、更にはそのような要人がこの街にいるとは考えにくい。
だとすれば、どこかで立体起動装置を不正に入手したあいつらが、悪事を働くために使っているのだろう。


…それにしても、なかなか尻尾を掴めない。
これでは復讐どころか、奴らの実態さえ見えてこない。
何せ、殺し、窃盗、売春等といったものが日常茶飯事であるこの街で犯人を探すのは骨の折れることなのは明確だ。


はぁ、
と溜め息をついた時だった。


パシュっという音と、ヒュンヒュンと風を抜ける音が次々と聞こえてくる。


「…くっ!」


憲兵団か、奴らかはわからない。
ただ、この音は立体起動装置の音であることは確かだ。
どちらにせよ、誰が立体起動を使っているのか確認しなければ。

屋根から立ち上がって辺りを見渡すと、近くのブロックから小さいものの煙埃が上がっている。
その方向からして向かうのは─と憶測立ててすぐに向かう。
自分のスピードではあの装置には敵わない。
それならば待ち伏せするしか策はないのだ。


多分、こっちのはず…


いつかの復讐を果たすその日の為に、と鍛えた体が建物を飛び越え、障害物を交わしていく。
走って走って、飛び越えて…
景色が後ろに流れて行くなかで、
その時、
時が止まった。



シュウッ──



目の前を男が横切っていく。
その男が、冷たい目でジロリと私を横目で見た。
眉間に皺を寄せて向けるその冷たい視線は、あの日と同じものだ。


「…っ!」


立ち止まると同時に、止まっていた時間が動き出す。
ビュン、と目の前を物凄い勢いで人が駆け抜けていった。
慌てて目でそれを追うと、あの男の後ろには仲間らしき二人がそれをまた追っている。
そのうちの一人が金髪で、確信する。


やっと、見つけた。
…あいつらだ。


逃すまい、と走り始めた時だった。
後ろからヒュン、と風をきる音が聞こえたと同時に、何人かが自分を物凄い勢いで通りすぎていく。
彼らの纏った深緑のマントが、ひらひらと靡いている。


憲兵?
いや、そんなのどうでも良い。
とりあえず追い付かなくては。


アイシャは遠くなっていくその背中を必死に追いかけた。
立体起動で乱れた風が、アイシャの横を再びひゅう、と遅れて通り抜けた。



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