夜明けの時間。

□09,捕獲
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「…エルヴィン。」
「あぁ。」


エルヴィンがこちらを見て頷く。
やはり彼も気が付いていたか。

風にのって届くこのにおい。
近すぎず、離れすぎず、ある一定の距離を保っている。


…つけられている。


其れにしても、此処は噂には聞いていたが本当に薄暗い街だ。
エルヴィンの指示の下ゴロツキ共を捕らえに来たが、そうでもなければあまり近寄りたいとは思わない。
"ごみ溜め"とも呼ばれるこの場所は匂いがキツい、などとそういった意味ではなく、何よりこの重苦しい雰囲気の中にいるのが嫌だった。

しかし上からの命令に従うのが兵士としての勤めというもの。
兵士でない者が立体機動を不正使用している、またあろうことか憲兵でも捕らえることが出来ない。
その腕は兵士かそれより上と予め情報を聞いていたが、確かにこのゴロツキは腕が立つようだ。
まともな訓練をさせれば、俺をも凌ぐ強き兵士になるかもしれない。
そんな奴と対峙した後に、これだ。
正直これ以上の面倒事は御免だ。

ミケはふぅ、と溜め息をつくと、後ろからついてくる気配に集中した。


敵は一人。
漂う香りからして想像するに、おそらく女だろう。
こいつらゴロツキの仲間か…?
いや、エルヴィンに今回捕獲するのは3人、報告書にも立体機動の不正使用は3人だと書いてあったはずだ。
捕らえられたゴロツキ共を見ても大人しくしているし、後ろを気にする気配もない。
だとすれば何のために...

考えを巡らせていると、地上とを繋ぐ階段が見えてくる。
そんな時こちらを見つめる視線に気が付きそちらを見やれば、エルヴィンが小さな声で言った。

「…ミケ、行けるか?」

無言で頷くと、立体機動に手を掛けた。
地上に帰るまでにカタをつける。
誰にせよ、何故つけているのか聞きだす必要がある。





***************



ゆっくり、ゆっくり。
近すぎず、離れすぎず。
建物の影に身を潜めながら後をつけていく。

奴らたちはこれから地上へ連行される。
自分もあとを追って地上までいけるとは思っていないが、ただこのまま帰りたくない。
せっかく今まで探していたものが見つかったのに、それが自分の前から消えるのを黙って見過ごすことは出来なかった。

少しでも良い。
あのまま帰るより何か情報を掴めるかもしれない。
そんな気持ちで彼らの後をつけた。

捕らえられたあの3人は、手枷をさせられたまま俯いて歩いている。
それを囲うように調査兵が歩いているのだが、彼らはどれくらい腕が立つのだろうか。
憲兵が今まで捕らえられなかったものをいとも簡単に3人まとめて捕まえてしまうのだから、精鋭の集まりが調査兵団なのだろう。
そんな彼らに自分が敵うわけもないだろうし、どうやって隙をついて奴らを殺めてやろうか…
そんなことをぼんやり考えている時だった。



「きゃっ…!」



ガシッと後ろから肩を掴まれ、それに驚き体が大きく跳ねあがる。
その一瞬をつかれて、気が付けばあっという間に腕を後ろで拘束されてしまった。


「何者だ。」


その言葉の主を見れば、リヴァイの頭を水溜まりに叩きつけたあの金髪の男で、先程まで前方にいた…

前を見ようとするが、完全に建物の影に自分たちがいるせいで全く見えない。
考えるばかりで注意、集中力不足だった。
前から男がいなくなったことにも気が付かないなんて。


「…答えろ。」


何も答えない私に再び質問する。
此処で答えなければ、私も頭を地面に叩きつけられるのだろうか。


「ただの住人よ、此処の。」


ぐっ…!


私の答えがお気に召さなかったのか、拘束された腕に更に力を入れられる。

「…っ…アイシャ、名前はアイシャ。」
「…アイシャ、何故俺達のあとをつける?」
「…。」


下手なことは言えない。
彼らを殺したいなんて言ったらどうなるだろうか。
恨みを買うような奴らだから仕方ない、なんて答えが返ってくるとも思わないし…想像出来ない。
とにかく、早く"何か"を答えなければ腕を折られる可能性がある。


「ちょ、調査兵団に興味があって…」


咄嗟に出た回答にしては酷すぎると苦笑する。
へらっと笑ってみせるが、作り笑いというのはバレバレだろう。
自分でも顔がひきつっているのがわかる。


「…匂うな。」
「へ…?」


いきなり何を言い出すのかと思えば、
「応援に来ました!…が必要なさそうですね。」
と言いながら兵士がこちらへ近寄ってくる。

「エルヴィン分隊長がお呼びです。」
「わかった。…お前も来い。」



幸か不幸か、こうして私も調査兵団とやらに捕らえられたのだった。

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