女主、練紅明長編(予定)

□03,熱い握手
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……。

生きてるのかな、私は……。

「うぅ……」

頭がガンガンする。ということは生きてるのか。気絶とかしたことないからわからなかったけどフッって意識が消えたな……。

ぼやけた視界には豪華絢爛な部屋が写った。天井がついたベッドの横には、いかにも調度品って感じの水差しやら硝子のコップが置いてあった。

「あ、お目覚めになられましたか」

驚いて声の方向を見ると、これまた韓国やら中国の民俗衣装みたいなのを着た女の人が立っていた。多分、使用人かなにかだろう。

「熱中症と貧血だそうですよ」

……そういえばなんも飲んでなかったからなあ、あのかんかん照りの中。川でも結局水に触ってもないし。

「あと、第一皇子から言伝てがありまして」

「……?はい」

言伝て……?処刑の日にちが決まったとかはいやですよ。

「皇子は忙しく、対談の機会は後々もうけると」

対談……。まあ、異世界について聞かれるんだろうな……。それも一種の拷問というか……。まあ、いいか。

「そしてそれまでの一週間、勉学と稽古に励むように、と」

対談は一週間あとか……。じゃなくて!まじか!勉学と稽古!?いや、なんで!?勉学はまあいいけどなんで稽古!?剣道もなにもやったことないんですけど!!

使用人さんもどっかいってしもうた……。

途方に暮れて窓の外を見やると、空は夕焼けで紅く染まっていて、なんだか哀愁を感じさせた。そういえば部屋も薄暗い……。

……。

なんか眠くない……。まあ眠くもないのにこんな時間まで寝てたからな……。

「建物の中でも歩きまわろうかな」

こんなに広くて立派な所なんだから、少し見学したいと思った。怒られそうになったら必殺「お手洗いはどこですか」で乗り切る‼

実際、トイレの場所すら分かんないもんな……。この部屋は見たところ客室みたいだけど、お風呂とかはついてないみたいだった。それに明日から勉強とか稽古しなきゃなんだから、探検しておいても損はないと思う。

「よし、善は急げだ!(?)」

部屋に備え付けのようだった草履のようなものを履いて部屋を出た。

部屋を出ると木造の廊下が奥まで続いていた。この客室は廊下の奥の角部屋だったらしい。ここの棟は客室なのかな、と思った。特に話し声も聞こえて来ないからわからないが。

少しすると、分かれ道のようなところへ出た。一方は半分外みたいな感じで、東屋のようだった。もう一方はせっせと書類のようなものを持って廊下を行き来していた。

仕事の邪魔になると悪いので、私は東屋の方へ向かった。

五角形か六角形の屋根と同じ形の椅子に腰かけて、空を見上げた。夕焼け空を黒い鳥が横切っていく。こっちの世界にもカラスいるのかなーとか思っていると、なんだか賑やかな声が聞こえてきた。

「夏黄文!明日からなんか私に予定が入ったって聞いたんだけどぉ?」

「あ、そうでありますね。明日から、朝7時から9時まで剣術の稽古が入っておりますよ」

「ええ?私に稽古なんていいわよぉ。自主練で十分だし、紅覇ちゃんくらいじゃなきゃ相手にならないわぁ」

「いや、それがでありますね……。稽古をつける方をやるといいますか……」

……なんだか既視感っていうか、それってまさか……。

「はぁ……いいけど誰によぉ?」

そう問われると、隣にいた夏黄文はちらりと私の方を見た。うわ。目があった。

それを見て紅玉はあっという顔をすると、すすすと近づいてきた。

「あなた、お昼の子じゃなぁい」

文末に異世界の、と付け足すと意地悪そうに微笑んだ。……なんかすごい貫禄だな……。

「初めまして」

軽く会釈をする。金属器のかんざしがキラキラ夕陽で輝いている。これが金属器使いの貫禄なのかもしれないと妙に納得した。

「明日から剣術を教える練紅玉だけどぉ、あなた、なにかそういうのやってたぁ?」

ウーン……。まるっきりやってないっていうのもなあ……。でもやってないことに変わりないし、運動も苦手だからなあ。

「いや、全然で……」

「これは教えがいというものがありますな姫君」

(いいですか、姫君。これをめんどくさいと思ってはいけません‼この機会を利用するのです……。剣術がてんで駄目な旅人を、姫君と張り合えるくらいに育てることができたらどうでしょう……!?きっと兄であるあのお三方も一目おくことでしょう。そうすれば姫君の地位もあがりゆくゆくはワタシの地位も……!グフフ!!」

全部筒抜けなんですけど……。マンガ通りのキャラだなみんな……。

「ま、明日からしごくから覚悟してよぉ、藍」

「とりあえず最初は貴方のどんくささが決め手なんですからねっ!!頼むでありますよ!!」

そういうわけで、二人と熱い握手を交わした私であった……。

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