一般的なラブコメ

□家族とは
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僕は、家族というものがわからない。それもそのはずだ、僕の両親は、もうこの世にはいないのだから。









小さい頃、僕の住む家の近くに建立されるはずだったショッピングモールの工事が行われていた。
とても高い建物で、50mという高さを目処に建設されていた。
9歳の頃のとある夏の休みの日、僕はその建物の工事現場を見に行った。

「すごいや、こんっっっっなにでっかい建物が家の近所に出来るんだもん!」

「すごいだろ?おじさんもこの仕事には誠心誠意全てを込めているつもりなんだ」

にやり、と工事の人はかっこつけて笑った。だが、その時だった。集中が逸れた、たったそれだけで車の操縦をミスし、ワイヤーで結ばれて運ばれていた鉄骨の束が解け、幾千の槍撃となり、僕の頭上へと飛んできた。

「避けろ、旭ぃぃぃ!!」

一緒にいたお父さんが、僕を庇って鉄骨の下敷きになった。下敷き、というよりは串刺しになれた、と言うべきなのだろうか。
半分を露わにした脳みそから脳汁が飛び散り、手足の一部があちらこちらへと散乱、お父さんは即死だった。

1年後に、母もこの世を後にした。死因は、過労死だった。愛する夫の惨死に、休むまもなく働かなければならなくなってしまったという辛みや病みきったその心は、死ぬその半年も前には限界を迎えていた、なんて医師の針馬(しんば)先生に言われたが、今更それを僕に言ったとして、どうにもならないだろう、何がしたいんだよ、心の中で恨みを募らせていた。

その中で一番不安だったのは、妹のことだった。妹の雪姫(ゆき)は、僕と2歳、歳が離れていた。そんな僕より少し幼い少女が、親がいないというこのショックに打ち倒されずに強く生きてくれること、途中で壊れないことを祈って、小学生の僕なりに彼女を思っていた。

叔母の余子(よしこ)さんの家に引き取られるという話が親戚の中の話し合いで浮上した。僕は、勿論それを拒絶してしまった。
余子さんは子どもが出来ない。その慰みものになるつもりなんてサラサラなかったし妹は自分で面倒を見たいという欲求があったから、親戚との縁が危うくなってしまうのではないか、というくらいに抵抗をした。



4年後、僕は祖母の家に行かなければならなくなった。なにやら話がある、とのことだった。僕はそれを畏怖していた。4年という年月の間で、親戚との交流も減ってしまい、その4年前に起こした僕の我侭について何か言われるのではないか、なんて少し深く考えていた。

「な、何これ…」

「見てわかるだろ?900万だよ。余子さんはあんたを心配して、この数年ずっとお婆ちゃんや他の兄弟、その他の親戚の方からお金を寄付させていたんだ、お婆ちゃんもびっくりだよ、こんな金額を目にするなんて思ってもなかったよ」

「ありがとう、雪姫のためにこれは使わせてもらうよ」

僕が祖母に呼ばれた理由、それは、僕の妹への熱い愛情に心を動かされた余子さんを始めとする6人兄弟が総動員し、ここまでのお金をかき集め、僕の中学祝と言って渡してくれ、と祖母に託したらしい。この事実を知って、その日の僕は目玉を真っ赤にしてしまうくらい泣いてしまった。

「お兄ちゃん、顔怖い」

「仕方ないだろ、だってこんな」

布団の中、僕は雪姫に起こされたのでくるりと振り返り、雪姫を見た。その時にかけられた第一声がそれだった。






それから数年、僕は高校2年生になった。雪姫は中学3年生になった。

「行ってきます。雪姫、気をつけて学校に行けよ、あと戸締まりもよろしくな」

「はいな!後は任せて行きたまえ」

健やかに、中睦まじく、育ってくれたのは嬉しいけれど、中学生とは思春の最大の病があったのだった。それは、中二病だ。
妹は、その最大の病にかかってしまい、今はあんなふうに少し変になっていた。しかし、なかなか可愛い。幼稚園生だった頃はあいつもヒーローごっこしてたんだっけ、なんて少し懐かしく思えた。

春の少し寒くそよぐ風に、肩身を狭くさせて、30分ちょっとの登校時間を堪能していた。



校門の前、朝早くに着いた僕よりも早い生徒がいた。その生徒は、まるで僕の友達のように、知り合いのように、家族のように、話しかけてきた。

「おはようございます、あなたが海道 旭さんですね?私は長良(ながら) 結来(ゆき)、と申します。あなたのお父さんと私のお母さんの間に生まれた私ですので、あなたの腹違いの妹?になります」

僕は、何がなんだかはっきり言ってわからなかった。
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