その他

□俺だって
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「雪村く…「ちっづるー!!」



「平助くん!どうしたの?」



「さっき、左之さんが巡察ついでに団子買って来てくれたんだよ。一緒に食いに行こうぜ?」



「うん!お茶も用意するね」



「あぁ、よろしく頼むぜ!千鶴!」






俺の声を遮って行われた会話に割って入る勢いもなく、俺の声は消えていく。


思えばいつだってそうだった。



掃除を手伝おうと思えば、沖田さんが雪村君にちょっかいを出し、洗濯を手伝おうと思えば原田さんに先を越される。


まぁ、俺よりも原田さんの方が身長はあるから早く終わるのだろうが…



「あら、山崎さん?どうかしましたか?」



いつの間にか目の前にいて、俺に話しかけている雪村君に驚いて一歩後ずさる。



「あ、いや、なんでもない」



「?あ、よろしければ山崎さんもいらっしゃってくださいね。原田さんたちとおやつにするので」




「あぁ、ありがとう」



そのまま炊事場へ吸い込まれて行く彼女を見送り仕事に戻ろうと振り返る。




「ふーん。山崎君は千鶴ちゃんが好きな訳ね。行かなくていいの?左之さんたちのところ」





「沖田さん…」



わざと原田さんの名前に力を込めたのを聞き漏らすはずもなく、この人は自分に喧嘩を売っているとわかる。



「まぁいいや。ぼーっとしてると取られちゃうよ?左之さんはもちろん、平助も新八さんも千鶴ちゃんのこと大好きだよね。それに土方さんだってなにかと気にかけてるし、一君なんかも、ね」




「失礼します」




彼の目の前を通り過ぎる。




「忠告なんだけどなぁ」




「余計なお世話です」



正直な所、焦っているのは事実だった。


みなさんがそろって雪村君を好いているのはわかっていたし、誰かが動くのも時間の問題だろう。



だが、果たして俺は、その戦いに乗ることができるのだろうか。




もし、皆さんが好いていると言ってきたら、俺は上司に譲ることができるのだろうか。



その日の晩のことだった。






「山崎さん。いらっしゃいますか?」




廊下と部屋を隔てる襖越しに雪村君の声が聞こえた。





「あぁ」


俺は文机から立ちあがり、ふすまを開けてやる。




「こんな時間にどうしたんだ?」



「いえ、昼間起こし下さらなかったので、その時のお団子を…」




見ると彼女の手には湯呑みと団子が用意されていた。




「ありがとう」




「お仕事なさっていたんですか?すみません、お邪魔してしまって」



彼女は申し訳なさそうに眉を下げる。



「いや、問題ない」



俺がそう言うと、彼女は花が咲いたように笑顔になった。




「それでは、お召し上がりになったら廊下に置いておいてください」




そのまま部屋から去ろうとする雪村君の腕を半ば無意識的に掴んでいた。




「あの?山崎さん?」



「あ、あぁ、すまない」




自分でも驚いたその行動に理由をつけようと逡巡する。




「俺も出先で菓子をいただいた。よかったら一緒に食べないか?」




これは昼間言いそびれたこと。



「よろしいんですか?」




「あぁ」



俺が返事をすると彼女は先ほどよりも嬉しそうに破顔した。




「では、私もお茶を淹れてきます」




そのまま一度部屋から出て行った彼女を見送ったあと、思わず自分の頬にふれる。


顔はにやけていないだろうか、赤くなってはいないだろうか、と。




「失礼します…」





そして遠慮がちに再び部屋に入ってきた雪村君。




「わぁ、好きなんです!」




一瞬、心臓が止まるかと思った。



彼女の言葉に。




「好きなんです!このお菓子。江戸にいたころ、父様とよく食べて」




俺の持っていた菓子を見つめて笑う。



そんな彼女に、なにも言えないまま、菓子を差し出した。





「ありがとうございます!」




「喜んでもらえたようでよかった」




すると彼女は不意に俺に手を伸ばしてきた。


そのまま手は俺の額に触れる。


不意の行動に近くなる二人の距離に動揺する。




「ゆ、雪村君?!なにを…!」



「体調が優れないようなので…熱はないようですが、顔が赤くなっています」


自分の額と俺の額の熱を比べ、首をかしげる彼女に俺はさらに熱が顔に集中するのがわかった。




「全く…君は…」




「キャ!」



小さく悲鳴をあげた彼女の身体を引き寄せて自らの額と彼女の額を合わせる。



先ほどよりもはるかに近づいた距離に雪村君が赤面するのがわかる。



「や、山崎さん?!」




俺は静かに身体を離す。




「気をつけろ。今のように誰に触られるかわからない。男に無闇に触れる物ではない」



「え、いや、あの…」




すると彼女は少し寂しそうに縮こまった。



「別に、誰にも触れるわけじゃないです…山崎さんだから!」




きっと彼女は俺だったら大丈夫。と思ったのだろう。




「俺とて男だ」




そのまま俺は彼女に菓子の包みと茶を持たせ、部屋から出した。



あのままいられては、なにをしてしまうかわからない。




熱くなった身体を冷ますように冷めかけた茶に口をつける。








だから、気がつかなかった。


彼女の部屋から出る時の、なんともいえない表情に。


部屋を振り返って呟いた一言にも。



それほど、動揺してしまっていた。









「山崎さんにだったら、いいって思っていたのに…」



Fin



着地点も見つからず終わってしまった話。
中途半端ですみません。
山崎さん難しいです。
でも大好きなので精進します。

この二人は多分、近々くっつきますね。
もしかしたら続編書くかも?

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