その他
□責任
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そこは、この世とは思えないほどの赤だった。
その中心で佇む白い髪。
彼の瞳もまた、真っ赤であった。
周りにもう立つ様子の者がいないことを確認すると彼は自分の刀を鞘に戻し、私を見た。
私と目があったのを確認すると彼はいつもと変わらない笑顔で笑う。
でも彼の姿はいつものそれではない。
私は堪えきれず返り血が付くのも厭わず彼の胸に抱きつく。
「ごめんなさい。ごめんなさい…」
語尾は掠れ掠れで自分でもなにを言っているのかわからない程。
しかし彼、永倉新八は気にしたようもなく私の背中を撫でた。
「千鶴ちゃん。怪我はねぇか?」
私が首だけで頷くと安心したように彼の力が抜けたのがわかった。
「なんで…なんで私の心配なんてするんですか」
私が嗚咽混じりにそう言うと彼は困ったように笑った。
「んー。つってもな。きっと難しい理由なんてないんだよな」
「だって、私の所為で永倉さんは…!」
すると彼は私の肩を掴んで屈み、私に目線を合わせる。
「そうだなぁ、千鶴ちゃんのせいだ」
彼はまっすぐ目を見つめたまま言った。
「ごめんなさい」
「だから、責任、とってもらわなくちゃならねぇ」
「責任…?」
私がそう言うと、永倉さんはまるで愛らしいものを見るかのような瞳で私の頭を撫でた。
「俺はな、千鶴ちゃん。変若水が配られた時、絶対こんなもの飲まねぇって思ったんだ。俺は潔く男らしく武士として死ぬって、そう思ってた。でもな、変わっちまったみてぇだ」
瞬間彼はふっと息をついた。
「俺には武士として生きるよりも大事なもんができたっつぅことだ」
「大事なもの…?」
「俺がこの羅刹たちに斬られて、千鶴ちゃんが危ねぇって時、俺は無意識に変若水を握ってた。気づいてたらもう、飲んじまってたんだ。意味、分かるか?」
多分返事は求めていなかったんだと思う、彼はすぐに続けた。
「俺は千鶴ちゃんを守りてぇって思いだけで変若水を飲んだ。武士としての誇りより、千鶴ちゃんが大事だって、この思いは間違っちゃいねぇって思った」
私の涙は先程よりも大粒になって地面を濡らしていた。
「俺は千鶴ちゃんに惚れてる。俺が羅刹になったのは千鶴ちゃんのせいだ。俺がお前に惚れちまったばっかりに俺は羅刹になって、千鶴ちゃんもこうして泣いてる。だからな、責任とってくれってんだ。いつまでも俺の、羅刹になっちまった俺の隣にいるって」
彼は自分の厚い胸板に私を押し付け言った。
「もちろんです…!いつまでも…永倉さんの隣に居たいです!」
「でもな…」
少しさみしそうな顔で永倉さんは続けた。
「他に好いてるやつがいるってんならやめてくれ。俺は小姓としてお前に居て欲しい訳じゃねぇ。女として、俺についてきて欲しいと思ってる」
今度こそ私は涙で顔を汚す。
ぐしゃぐしゃになった顔で永倉さんに伝える。
「私は…!永倉の隣にいます!お慕いしております…」
「本当か!?」
「はい!」
するとぱぁっと花が咲いたように笑う永倉さん。
「よぉっしゃぁぁぁー!千鶴ちゃんはぜってぇ守る」
いつのまにか永倉さんの髪はいつも通りに戻っていた。
Fin
永倉さんルートはなんでないのだろう。
羅刹になる捏造です。
新ぱっつぁん難しいです。