その他
□腹を決めろ
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「誰かいてはりませんか!?」
先日相撲の興行がありそれの御礼に大坂に行っている隊士が多い中、屯所の玄関に女の声が響いた。
大坂に行っている面子に先程巡察に出たもの、その他所用のあるもののことを考えると今この八木邸にいて来客の相手をできるのは俺しかしないことを理解し、玄関まで出る。
そこで俺は俺が来たことに少なからず安堵していた。
「お前は…島原の嬢ちゃんか!?」
俺、原田左之助の目に映ったのは井吹龍之介の思い人である舞妓の少女、小鈴だった。
「…はら…だはん!?」
息も絶え絶えな小鈴の様子に普通ではないと悟る。
いくら人が少ないと言っても八木邸には一般隊士たちも残っている。
俺は小鈴を連れて前川邸に急いだ。
どうにか誰にも見られずに前川邸まで来たところで小鈴に問われる。
「井吹はんは…いてはりますか?」
その言葉に頷き龍之介の部屋まで連れる。
襖を開けるとやはりぼぅっとしていた龍之介。
龍之介は俺とその後ろにいる、小鈴を見ると驚いたように目を丸める。
「小鈴!?」
誰かに聞かれてまずいことはわかったのか声を潜める龍之介。
「もう会わへんって言うてはりましたけど、私、もう耐えられへんのです。助けてください、井吹はん」
必死なその物言いに俺はこいつの身になにが起こっているのか察する。
龍之介はわかっておらず、首を捻るばかりだ。
「落ち着けって、どうしたってんだよ」
「身請けがきまったんどす」
低まった声に場が凍る。
龍之介は言わんとすることを理解し、なにも言えないようだ。
「私、好いとう人ぐらい自分で決めたいです。おかあさんの言いなりなんて嫌やわ」
もう既に小鈴の瞳からは涙が零れていた。
俺は助け舟を出すように小鈴に声をかける。
「嬢ちゃんは助けて欲しいってか?」
すると小鈴は少しの間黙ってしまった。
恐らく自分が何を頼んでいるのか気がついたのだろう。
花街の女と逃げるということは命がけだ。
その後の人生は厳しいものになるかもしれない。
それは、女も、男も。
黙ってしまった小鈴に笑いかけてやる。
「別に責めてる訳じゃねぇよ。ただ、覚悟はあるのかって、そう聞いてるんだ。全てを投げて生きていけるか?それができねぇなら俺は見過ごせねぇ。龍之介にも小鈴にも幸せになってもらいてぇからな。どんなときだって龍之介と二人だったら大丈夫だって、そう思えるか?」
こう聞くと、迷いもなく頷く。
「それが、許されるのならば」
無くなった京言葉とその目からこいつの本気が伝わる。
俺はさらに笑う。
「そりゃあ、一目散に新選組の屯所に走って来ちまうぐらいだもんな。野暮なこと聞いた」
そして黙っていた龍之介を振り見て問う。
「嬢ちゃんはとっくに腹決めてるぜ?龍之介、お前はどうする?」
ここで龍之介が頷かなければこいつは置屋に戻り、身請けの話が進んでいくのだろう。
きっと小鈴は龍之介を責めもせず、背を向けてから泣くのであろう。
龍之介はしっかりと小鈴を見つめた。
その目から俺は安心して息をつく。
龍之介は覚悟を決めた男の顔をしている。
こいつなら、小鈴の望むものを与えてやれるのだ、と。
「俺は…もしかしたらお前を守り切れねぇかもしれない。苦しめるかもしれない」
「そないなこと知ってます。全部理解した上できたんどす」
そんな二人に俺は告げる。
「龍之介が腹決めれば後は俺がどうにかしてやる。可愛い弟分の世話ぐらいしてやるさ」
その言葉を聞いた龍之介はぐっと拳を握り言った。
「ついてきてくれるか?」
「はい」
それから俺に。
「原田助けて欲しい」
そう頭を下げた。
「任せろ」
それだけ言い、龍之介の頭を撫で回すと、渋る龍之介に金を握らせ大坂の伝手を教え送り出した。
その後ろ姿がかつての友人と被って見え、寄り添い歩く姿が羨ましく見えたのだった。
Fin
酷い捏造ですね。
原田さんに助けてもらう龍之介と小鈴ちゃんが書きたくて。
京言葉とか適当です。ごめんなさい。