沖田総司
□真っ赤な頬
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「千鶴ちゃん見なかった?」
僕は千鶴ちゃんを探して平助に声をかけた。
「千鶴ならさっきまで中庭で洗濯してたぞ?何か用事か?」
「ううん。暇だから遊んであげようかと思って」
「遊んで欲しいのは総司だろ?とにかく、まだ中庭にいるんじゃないか?」
「わかった」
それから中庭に向かった僕の目に映ったのは新八さん。
「新八さん。千鶴ちゃん見ませんでしたか?」
「おお、総司か。俺がここで剣振り回してる間に炊事場の方に向かったぜ?この時間だと、昼飯の仕込みじゃねぇのか?それにしても千鶴ちゃんの飯、楽しみだなぁ、なぁ?」
「ありがとうございます」
「お、おい!人の話は最後まで!」
「僕、千鶴ちゃん探してて忙しいんです」
そのまま適当に新八さんをあしらって炊事場へ向かった。
そこにいたのはまたしても千鶴ちゃんじゃない人。
「一君。千鶴ちゃんは?」
「あいつなら、昼食の支度を手伝うと言ってきたのだが、先程山崎君が境内の掃除をすると言っていたのでそっちに回ってもらうことにした」
「もー。なんでそんなにウロウロしてるわけ?めんどくさい」
僕がイライラを向けると一君は意外そうに僕を見る。
「あいつを探してるのか?」
「ちょっとね、ただ、さっきから追いかけっこ状態なの。僕が付いた時にはもういない」
「では、急いだ方が良いのではないか?」
一君の真面目な表情に僕は礼を言う。
「そうだね、ありがとう。一君」
それから向かう境内。
そこにいたのは僕が苦手とする人物のみだった。
「そんな気がしてたけど、やっぱり山崎くんしかいないか…」
すると彼はムッとしたように言い募る。
「やっぱりとはなんですか。人の顔を見てそれは失礼ではないでしょうか」
「お説教は後でね。千鶴ちゃんはどこ?」
すると彼は渋々と言ったように言う。
「雪村君なら疲れているようでしたので部屋で休むように言いました。今頃は部屋ではないでしょうか」
「ありがと」
すれ違いかと呟いて来た道を戻った。
千鶴ちゃんの部屋の前で声をかける。
「千鶴ちゃん?いる?僕だけど」
僕の言葉に何の反応も示さない襖。
いつもだったらすぐに嬉しそうな声とともに見せる姿も現れそうにはない。
ないかあったのではと、もう一度声をかけるがやはり返事はなかった。
少し心配になって襖に手をかけようとすると横からかかる声。
そこにいたのは土方さん。
「どうしたんだ?そんな慌てた声で千鶴を呼んで」
「土方さん。返事がなかったので気になっただけです」
僕はなんだかムッとして土方さんを睨む。
「なにイライラしてんだよ。千鶴に用事か?千鶴なら部屋に入ったと思ったら、すぐどっか出て行ったぞ?誰かに声かけられたみてぇだが…」
「わかりました。もう少し探してみます」
僕は適当にお礼を言うとイライラから足早になっていることに気づいてハッと乾いた笑いをもらす。
「僕にこんなに手間取らせるなんて、自分の立場、わかってるのかなぁ」
独り言を漏らしながら屯所を歩き回る。
「あはは。そうなんですか?…ですよね」
途切れ途切れに聞こえた声に耳を澄ます。
この高い声は僕が知る限りこの屯所内に一人しかいない。
「そんなことないですってば!」
声のする方に近づくと、そこは縁側。
縁側には探し求めていた少女と、仲良さげに茶を啜る色男。
千鶴ちゃんが、左之さんと茶を飲むのはいい。
まだ許そう。
でも、あの顔は何?
左之さん相手に頬を赤らめて。
「もう!からかわないでください」
あぁ、本当に…イライラする。
僕は気がついたら千鶴ちゃんの腕を掴んで無理に立たせていた。
「沖田さん!?」
「黙ってなよ。左之さん、この子、借りて行くよ」
言葉の前半は彼女に、後半は左之さんに向けて言い放ち、そのまま廊下を歩く。
「沖田さん!?どうなさったんですか?」
わけのわからない様子で僕を見上げる千鶴ちゃんを軽く振り返ってでも、なにも言うことができずに僕の部屋まで連れ込む。
「沖田さん?怒って…らっしゃいます?」
「さぁね。どう思う?」
僕はしれっとして問う。
こんな横暴に連れて来た時点で、怒っていることは間違いないと思うんだけどね。
答えられない彼女の代わりに僕は言葉を紡ぐ。
「千鶴ちゃん。どういうつもり?左之さんに向かって頬を染めて。僕の前以外でそんな顔許した覚えないんだけど?そんなに恥ずかしい話をしてたの?それとも口説かれた?」
「あ、あの…どちらでも、ないです」
はっきりとしない彼女の言葉にますます疑念とイライラが募る。
「じゃあ何?」
「沖田さんの、話をしていたんです」
「は?」
今度こそ、素っ頓狂な声が漏れた。
「あの、沖田さんとのこと、原田さんにからかわれてしまいまして…」
またもや顔を赤らめて俯く千鶴ちゃんに僕は動揺するばかり。
「じゃあ、僕の話をしてたから照れてた訳?」
「は、はい」
言い切った彼女の目がしっかり僕を捉えていた。
「仕方ないな。今回は許してあげる。でも、いろんな人に人気なんだね君って。屯所中探し回って疲れたよ」
「ごめんなさい」
もう一度頭を下げる千鶴ちゃんの肩に手を添える。
「今回は許すよ、これでね」
僕は彼女の唇に僕の唇を触れた。
途端に先程とは比べ物にならないくらいに顔を染める千鶴ちゃん。
「だけど、だれにでもホイホイついて行くのは感心しないな。いつでも僕の目の届くところにいてくれないと」
固まったままの千鶴ちゃんに届いたかわからないけど、この子ならきっと僕から離れて行ったりしない。
そんな予感がなぜか、胸を満たしていた。
まぁ、この屯所内では狼から狙われる子うさぎな訳だから、僕が守ってあげるけどね。
Fin
次々と移動する千鶴ちゃんを追いかける沖田さん。
もう少し追いかけるシーンをつけたかった。
やっぱりしりすぼみですよね。ごめんなさい。