沖田総司
□私の出来ること
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「はぁ」
自分でも気がつかないうちに漏れるため息にまたため息をつく。
今日は珍しくみなさん揃って島原へ向かった。
私も誘われたのだが、どうも島原の雰囲気に慣れずお断りしたのだった。
しかし今になってやはり行けばよかったと思う。
と言うのも、何人かの隊士を除いて殆どが出かけてしまった今、広い広間で一人夕餉を食べるのはいささか寂しいのだ。
私は膳を持ち、部屋へ向かった。
自室ならばあまりみなさんがいないことを気にしなくてもいいと思ったから。
だが部屋に待っていたのは静寂。
突然、もう遠き記憶となりかけてしまっている父様のことを思い出す。
箸を持つ手が止まり、私は涙をこぼさないよう上を向く。
「千鶴ちゃん?」
その時襖の向こうからかけられた私を呼ぶ声。
それは私の中でとてつもなく大きな存在である沖田さんのもの。
「ここにいたんだ」
私の返事を聞いて入ってきた沖田さんはすっと私の隣に腰を下ろした。
「どうしたの?」
私の曇った表情に気がついたのか沖田さんが顔を覗き込んできた。
「なんでもありません。それより沖田さんこそ、島原へ行ったんじゃなかったんですか?」
「島原へは行ったよ。だけど帰ってきちゃった。千鶴ちゃんが寂しい思いしてないかなって」
冗談めかして言ったその言葉に優しさが隠れていることには勿論気がついている。
「お腹空いたなぁ」
突然のその言葉に私は席を立とうとする。
「何かご用意…」
「大丈夫だよ」
しかし私の腕は沖田さんに掴まれてしまう。
それから…不意に掴まれた腕を引き寄せられ触れる唇と唇。
「きゃ!」
「ん。美味しい」
驚く私をよそに沖田さんはそんなことを言う。
「僕たちも父様を探してる」
突然だった。
でも多分これは突然だったのではなく、おそらく私が父様のことを考えていたと分かっての行動。
あの口吸いは沖田さんの本音の予備動作。
腕を掴まれたまま私は沖田さんの胸に引き寄せられる。
抱きしめられる形になった私に沖田さんが話す。
「土方さんがね、たまに千鶴ちゃんが悲しそうな顔をしてるって言ってた。近藤さんも申し訳ないって気にしてた。平助も左之さんも新八さんもすごく千鶴ちゃんの父様を探してるよ」
その全てが私の知り得る事だった。
みなさんが私を気にかけて動いてくれていることははっきりと分かっていた。
だからこそ、私は明るく振舞っていたのだから。
「はい…」
「じゃあ、今の君に出来ることは?なんだと思う?」
私は迷わず答えた。
「みなさんに余計な心配をかけずにいること。お邪魔にならないこと」
「違う」
しかし直ぐに否定されてしまう。
「心配はあの人たちが勝手にしてるだけ。千鶴ちゃんがどうこうすることじゃない。お邪魔なのは…仕方ないことだよね。それでも置いておいているのは邪魔ってだけじゃないからだよ」
「では…」
なんで。
そう聞こうとしたところに沖田さんの声が被さる。
「しっかりご飯を食べること」
でもこればかりは黙って頷くことが難しかった。
「沖田さんに言われたくないです」
「言うようになったね、千鶴ちゃんも」
面白そうに笑う沖田さん。
「父様が見つかった時千鶴ちゃんに元気がなかったら、僕らが怒られちゃうじゃない」
それから少し目を逸らして。
「父様が見つかった時、元気で会えるように、それまでは仕方ないから僕が守ってあげるよ」
そう言ってより強く私を抱きしめるのだった。
Fin
ちょっと真面目な総司。
私の書く総司は総司っぽくない。