沖田総司

□最期まであなたと
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考えたことが無いわけじゃなかった。



だけど、どこか楽観視していたのかもしれない。



はたまた、期待していたのかもしれない。




鬼は、病気にかからないと。




僕が異変に気付いた時にはもう遅かった。



一番大切な人の様子にも気づけないほど、僕は幸せに酔いしれていたのかもしれない。





彼女と二人の、幸せな暮らしに。





僕の楔は彼女の体までをも蝕んでいると言うのに。




「ごほっごほっ!」



隣で寝ていた千鶴ちゃんが起き上がるのに気がついて僕も体を起こす。




しかし、千鶴ちゃんの様子がどうにもおかしい。




千鶴ちゃんからはよく聞き慣れた咳。



目の前が暗くなる。



「ち、づる…ちゃん…?」




「ごほっごほっ!」




苦しそうに眉を寄せる千鶴ちゃんの背を摩る。




いつから?どうして?僕のせいだ。





そんなことが頭を離れずつきまとう。





「おき…た…さん」




弱々しく咳の間から紡がれる僕の名。




「千鶴ちゃん!千鶴ちゃん!ごめん!」




暫くし、落ち着いた千鶴ちゃんを見て、僕も自分が取り乱していたことに気がつく。



行灯を付け、部屋が一度に明るくなった。




そこで僕は決定的な物を目にすることになる。



「千鶴ちゃん。これ…」



ろうそくの赤い光よりもさらに赤々しく光る血液。




千鶴ちゃんの口と手、さらにそこから溢れた物が布団に花を咲かせていた。




「いつから…!?いつから!?」




僕は慌てるでも、驚くでもない彼女を見てなんとなく予期してしまった。




長いのだと。



僕の気がつかないところで、僕の世話をしながら、でも確実に病に侵されていたのだと。




「大丈夫です。起こしてしまってごめんなさい」




懐紙を取り出す千鶴ちゃんに言われようもない感情が溢れる。





「ごめん…ごめんごめん」




「なぜ、謝るんですか?」




「僕のせいだ。僕の側にいたから…」




僕は千鶴ちゃんの肩口に額をぶつけた。




薄い夜着から感じる体温がいつも通りで、涙が溢れた。





「沖田さん」




彼女は言い聞かせるように続けた。




「私、私が沖田さんのお側に居たいって、そう思ったからここにいるんです。それ以外の理由なんてないんです。だから、その選択を否定するようなことは言わないでください。沖田さんのせいだなんて、言わないでください」




一分の迷いもなく放たれたその言葉はなぜだかすっと胸に落ちた。




「私は、沖田さんのお側に居続けたいんです」




抱き寄せると細くなった体に気がつく。




今の今まで僕は何を見ていたのだと呪いたくなるほどに。







それから幾月か。



千鶴ちゃんの病状は日に日に悪くなる一方だった。




僕の方が発症が早かったのに、いつの間にか床に伏せるようになったのは千鶴ちゃんの方。




元々体力の無い体にさらに今までの過労。



それから、鬼である彼女の体は人間の病に対応できないのではないかという松本先生からの言葉。




千鶴ちゃんの命はもう、途絶えかけていた。




「千鶴ちゃん、これでよかったのかな?」



千鶴ちゃんの枕元に座り髪を撫でる。




「私が選んだ道です。私、幸せです」




あなたと一緒にいられて。





その言葉を最期に、千鶴ちゃんは目を閉じた。




「千…鶴…ちゃ…ん…」





先ほどの言葉に嘘偽りは無いと幸せそうな微笑。




最後の最期まで、僕の愛した女性は泣くことをしなかった。




それに対して、僕は…



君のことだと、どうも泣き虫になってしまう。



それ程までに、僕は君を殺したくなかった。



でも、離れることも耐えられずに。




これは弱い僕への罰なのだろうか。




神様は僕から全てを奪って、満足しただろうか。




最後ぐらい、神様に我儘を言ってもいいだろうか。




…せめて次の世では永遠に幸せに。




「千鶴ちゃん…。好きだよ…」




僕は涙に濡れる瞳をそっと閉じた。





Fin





セリフ少なっ!



なんだかんだで労咳死ネタは初めてな気がします。



それに千鶴ちゃんが先に…




ごめんなさいー!!

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