まいん

□レジストリ復元ファイル
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「到着いたしました」

秘書の言葉に、
軽く目を閉じていた赤司はゆっくりと前を見据えた。

運転をしていた秘書は、
しっかりと店の駐車場に車を止めて鞄から手帳を出して伝えた。

「明日のご予定は婚約者さまと過ごすことになっております」

「そうだな」

脚に肘をついて支えながら
体を椅子に埋める。

赤司にとって“オンナ”とは、
家のために利用するだけの“ソンザイ”だ。

愛着を持ったことはないし、
学生時代からとっかえひっかえ。大学時代には一度に2桁になったこともある。
女側もそれを知っていて傍にいたのだから、
確信犯しかいない。

明日会うことになる婚約者は、
親が家のために用意した道具にしかない。
子供を娠むことができれば問題ない。
ようやく、自分の時間ができる。


――仕事に盲目的になれる。


秘書が車のドアを開けて
冷たいアスファルトを踏みしめた赤司は。
視界に映った光景に、
柳のような眉を顰めた。

赤司の婚約者と目つきの険しい男が向かいあっていた。

男の後ろには、男が運転してきただろう車が止まっていて
女は胸や背中を大きく開いている黒いドレスが着ている。

女は赤司が見たこともないような薄い色のルージュを塗った唇を開いた。
赤司はドきつい原色の唇にしか口づけたことはない。

「ねぇ、本当の話なの?」

初めて聞く、声音だった。
怒りでイライラ・ヒステリーな声は聞いたことがある。
だが、こんなにも低く。感情を感じさせない声を聞くのは初めてだ。

赤司は腕を組んで傍観する。
秘書は仕事が終わったので駆け足で駅のほうへ向かう。

「本当の話なんです」

見た目とは違って、おどおどとした声を出す男。
男の三白眼に涙が浮いていることに気付き、
赤司は注視することにした。

どんな結果になろうとも
面白い余興だ。

赤司の白い美貌に酷薄な笑みが浮かぶ。

「あなたの話に嘘がないって実感しているわ。
でも、そんな話を信じろっていうの?・・・バカにしないでほしいわ」

「そうですよね・・・信じろっていうのは乱暴なハナシですよね・・・・・・。
でも、ほんとうのハナシなんです。
オレは今まで、調べてきたことを合わせてこの結果に行きました」

「だから、それが・・・堂々めぐりになるだけだわ」

女はナチュラルメイクをした顔を覆った。
男は女の迫力に圧倒されて顔色を青くした。

この大根役者しかいない余興が
さっさと終わって・・・開幕にいなかったことを若干、悔しく思う。

女はもぞもぞと唇を動かした。
そして、最後の方の言葉を強めに言った。

「わたくしはあなたを恨まないけど・・・。気をつけなさい」

あなたの敵は強すぎるわ。

男に近づいてほおに口づけた女は、
男の後ろにあった黄色のミニに乗り込む。

突然の口づけに呆然とした男は、
反射で体を車から引く。
強烈なエンジン音を轟かせながら女を乗り込ませた車は、
駐車場から発車した。

発車した車が十字路を右に曲がるのを
完全に証拠として見届けたあと。

「それで、アレは僕の女だって知っているよね」

僕が必要としているのだから、
僕のモノだろう。

人の命を廃棄するまで酷使する発言をしでかした赤司に対して、
男――降旗光樹は、赤司征十郎の冷ややかな威圧感に滅多打ちになっていた。
そして、大のオトコとして恥じるべきこと。
瞳から大粒の涙を吐き出した。
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