まいん

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「ここで下ります。ありがとうございます」

世の女性が羨む、赤司征十郎の車に乗らせていただいての会社まで送迎。
ですが、オレは女性じゃないので心が痛いです。
もう、夢を醒めて!心の中がいっぱい。

赤司さまは余裕な笑顔でオレを車内から見上げて、黙ってさしたままの鍵を捻った。
その姿をやっぱ、オレなんて興味の対象じゃないんだなと勘違いをしていたと思った。
今までの休暇期間は気の迷いだったんだ、と、思い直して駐車場から離れようと足を車の外側に向けた。

なんで、メランコリックなってんのかな!?オレ。
そもそも一般人と天上人に接点があるのは少女漫画だけなんだから。

ゆっくりと頭を下げて、オレは自分の顔が見られたくないから窓ガラス張りの正面玄関まで走った。

***

オレは胃がつらくなる休暇を終えて。所属してる部署に歩いていると、
噂を知っている社員たちから「慰労」の目線で見られた。
・・・・・・心が落ち着かなくてありがたいっすね。

ことの重大さがまったくわからない
新人社員たちの不思議そうな目線に、なんとなく落ち着く。
病気なのかなと首をかしげてみたけど、見つからないです。

ようやく、オレは。
いつもどおりの下っ端社員に戻れるからとっても嬉しい!!
やっぱ、オレには金持ちの視線に怯える一般庶民なんだと再確認できて、心地いい。

+++

お昼もあいかわらず独り。

友達ができないんじゃなくて、
厄介事を作らないために逃げてるだけなんだけどね。
言い訳がましいってオレ自身が分かってるけどねっ!!

そんなオレが勤めている部署は、
技術確立部っていう地味で目立たない部だ。
商品やブランドの企画は、第一・第二企画部がやるんだけどね、
実際に物を作るのは、技術確立部。

中小企業とか町の工房とかと連携して
新しい特許とか新しいスタイルを確立する仕事をしているんだ。

実際、上から企画表が下に来て、
そのまま作られたことなんて、限りなくゼロ。
上から持ってこられる企画は100パーセント、夢物語。
オレたち――技術確立部はその企画を現実的にできるように、日夜関係なく頑張ってる。

時たま、案に沿うようにしたら失敗するのでどうにかして企画書どおりにできるか。
できるだけ逸れないように。それか、新しい路線を作り出せるか。

オレはときどき、企画をぽしゃらすけどね。

こんなオレが仕事ができるのは、
頼りないけど、厚顔無恥と勢いだけで乗り切れる上司たちと
頼りにしすぎて「いない者」的判断をしてくれている同僚たちと
高学歴すぎて会話を絶対できない新人たちのおかげです。





















赤司征十郎は、昼の仕事を終わらせた。
これからどんな仕事があるか、確認するために手帳を開いたら「会長命令」の文字を視認してさっさと引退しないからあの親父と思った。
むしゃくしゃする気持ちを抑えられなくて堅い柏ノ木で作ったデスクをどーんと蹴りあげた。

隣にある秘書室には、昼休憩をとっているおかげで誰も居なく聞いている者もいない。
足裏の痛みなど、まったく問題ない。
だが、夜の会食のことを考えると気持ちが滅入る。

「あぁ、最悪な気分だ」

自嘲の調べとでてきた言葉を赤司は、無意識で納得した。
そして、頭の方ではバカとしか思えないと呆れる。

仕事は仕事だ。
だが、汚ならしい老人たちの介護はしたくない。

そんなことをするなら、光樹の尻でも撫でてたほうがマシだ。
仕事とはまったく関係ないことを考えていると、
わらわらと秘書室に入っていく足音が聞こえてきた。

もう、休憩が終わったのか。
一切休憩なんてしてないことを社員の流れで確認して、次の仕事に取りかかる。
時間なんてなくてないようなものだ。

いつもなら、楽しいと思える仕事も。
今回ばかりは厄介ごとの壁としか思えてならなかった。
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