気紛れ駄文
□日記再録
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――視界に入ったその光景を、アッシュは一生忘れないだろう。
そこには開かれた窓から差し込む和かい光を背負いながら、女としての戦いの果てに憔悴しながらも腕の中の小さなものに微笑む母の姿。
その微笑みは誇らしくもあり、優しくもあり、力強くもあり……そして、何よりも慈愛に満ち溢れていて。
…その場は血臭や汗や他にも凄惨に近い状態だと言うのに、アッシュには何よりも清らかな空間に思えた。
突如掌を強く捉まれて、はっとそちらを見ると、同じように惚けて眼前の光景に見惚れるルークがいた。
うっすらと潤んだ瞳に、「あぁ…ルークも同じ気持ちなのか」と、アッシュはそっとその手を握り返す。
「…おぉ…シュザンヌ…良く、良く頑張ったな…っ!」
「……あなた…とても元気な男の子ですよ。」
まるで誘われるかのように公爵が傍に寄ると、シュザンヌも嬉しそうに腕の中の包みを見せた。
「…あぁ…!立派な子だ…!!」
感極まったのか、公爵は涙しながら妻と子を優しく抱き締めた。
シュザンヌも幸せそうにその頬に自らの頬を摺り寄せる。
「アッシュ。ルークも。どうぞこちらにいらっしゃい。」
動けずにいた二人にシュザンヌが声を掛けると、漸くそこで立ち竦んでいたことに気付いて、アッシュはルークの手を引きながらシュザンヌの元に立った。
「母上…おめでとうございます…っ。」
冷静だと思っていたのに、アッシュから出た言葉は思いの外上ずって、知らず緊張していたのだと知った。
「有難うアッシュ。…ルーク、大丈夫ですか?」
「は、母上…っ!俺…っ!」
ルークも緊張と動揺で巧く言葉が出ないようで、もごもごと言葉にならない言葉を繰り返していた。
そんなルークに、シュザンヌはそっと腕の中の赤子を差し出す。
「この子が貴方達の弟ですよ。…抱いてごらんなさい。」
「…ぇ、え!?俺が…!?」
「えぇ。貴方も兄なのですから。」
「…俺、が……兄…?」
差し出された赤子と、シュザンヌの言葉に更に動揺するルーク。
医師の指導を受けながら、壊れ物を扱うかのようにゆっくりと赤子を受け取った。
「…温かい…」
腕の中で確かに脈打ち命を主張する小さな体。
瞳も開かないそれは、何よりも弱々しいのに何よりも力強い。
伝わる熱が伝染したようにルークの目頭が熱くなり、込み上げてきたものは止めることもなく頬を滑り落ちた。
「…ルーク…。」
アッシュはそんなルークの瞼を宥めるように拭ってやる。
「…アッシュ…母上、父上…。俺、この命を守りたい。何があっても守りたい…ううん…守ってみせる。」
拭った瞼の奥から覗いたのは、決意を表わした守護者の瞳。
満足気に微笑むシュザンヌに、親の顔で見守る父。
そして、しっかりと赤子を抱くルークの隣で「ならば自分はそのルークを守り抜くのだ」と、アッシュは心の奥底に堅く誓いを起てた。
〜END〜
日記に突発的に書いた駄文なのですが、中々好評だった為駄文に移動(笑)
ルークおにぃちゃんって萌える?(聞くな)