気紛れ駄文
□日記再録
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「……弟妹…ですか…?」
「…マジ…?」
最終決戦から三年経って、二人は再び世界に舞い戻った。
更にそれから一年が過ぎ、その間に世界は様々に変わっていた。
その内の一つにジェイドとサフィール(本名に戻った)の医療研究の参加がある。
正確には、和平によって暇になったジェイドが遊び半分に医療に手を出し、負けず嫌いのサフィールが勝手についてきたのだが。
現代を代表する天才二人の参加。
そして、第七音素減少による医療の衰退を危惧したナタリアによる医療研究機関への資金の増加によって、飛躍的に技術は向上していた。
その中にはファブレ公爵妃シュザンヌの虚弱体質改善も含まれていた。
……のだが。
「……父上までお元気になられたようで…」
「…ム、まぁその…なんだ…」
「…俺、何か複雑…」
シュザンヌ様ご懐妊である。
そして、あっという間に季節は一巡りした。
「…あー…あー…なぁアッシュ!大丈夫だよな?母上大丈夫だよな!?」
「医師も大丈夫だと言っていただろうが。」
「シュザンヌ…あぁ、シュザンヌ…」
「父上、少しは落ち着いて下さい。」
シュザンヌが出産の準備に入ってからずっとこの調子の二人に、アッシュはうんざりと言わんばかりに溜息を吐く。
…って言うか、何でアンタまでここ(部屋の外)にいるんですか、父上。
「父上は母上の傍にいて差し上げた方が良いのでは?」
「…い、いや私もそう言ったのだが…シュザンヌに断られてな…」
しどろもどろな公爵曰く、アッシュの出産時には立ち合った公爵は、その出産の余りの凄まじさに途中で失神し、妊婦を支えるどころか医師達に余計な手間を掛けさせるという大失態を犯したらしい。
(情けな…っ!!)
父の変わりに立ち合おうかと提案したアッシュに、シュザンヌに言われた「母よりもあの人を支えておくれ。」と言う言葉の意味が漸く分かったアッシュである。
アッシュが幾度目になるのか分からない溜息を吐いたその時、分娩室代わりの寝室から布を裂くような悲鳴が聞こえた。
(!!――始まったか!)
「あああアッシュ…っ!アッシュ…っ母上がっ!!」
悲鳴を聞いて驚いたのか、蒼白になったルークが慌ててアッシュに抱きついてくる。
「落ち着け!出産には激痛が伴うんだと前に教えたろうが!」
「シュザンヌ…っ!シュザンヌ〜!!」
「アンタも!役に立たないならせめておとなしくしとけ!!」
錯乱して聞こえてないのを良い事に、アッシュ暴言吐きまくり。
結局、大の男二人にしがみ付かれながらアッシュは数十分間を過ごす事となり、ルークはまだしも、公爵が非常にウザいとアッシュの記憶には刻まれた。
それからどれだけそうしていたのだろうか、絶叫に近い悲鳴に怯え続けるルークをあやしつつ(公爵は放置)、アッシュもシュザンヌの無事を祈っていると――
―…ホギャ…ホギャア…―
聞こえた産声に、三人は一斉に部屋の扉に向き直った。
「…ア、アッシュ…!アッシュ!!」
「あぁ…!産まれた…っ!」
「シュザンヌ〜!!シュザごふっ!!」
「医師の許可があるまで入るんじゃねぇ!」
暴走する公爵に、あっすん無慈悲の水平平手チョップ炸裂。
しかし、お陰で冷静さを取り戻した公爵と赤毛二人はおとなしく目の前の扉が開くのを待った。
程なくして中から医師が扉を開き、入室を促される。