気紛れ駄文

□日記再録
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少し強めの陽のあたる午後の事。

アッシュは中庭に出ると、隈無く周囲を見回した。
けれど目的のものは見当たらず、舌打ちをしながら庭を突っ切り次の場所に移動する。


(あの屑…っ!一体どこに行きやがった!)


かなり年の離れた弟が生まれてから早半年。
それなりに改善に向かっていたとは言え、流石に出産という大仕事は負担が大きかったらしく、また少しだけ臥せるようになってしまったシュザンヌ。
その代わりに愛しい幼子の面倒を見るのは、専用に雇われた乳母……だけではなく、精力的にルークも子育てに参加していた。

寧ろルークの方が乳母以上に赤子に構っていると言った方が正しいかもしれない。
現に今だって、アッシュは赤子と一緒にいるはずのルークに会いに子供部屋に赴いてきたばかりなのだ。

しかし、扉を開けたアッシュを待っていたのは、空になったベビーベッドとその周囲を掃除していた乳母だけだった。
問うとルークは「天気が良いから陽なたぼっこしてくる」と、弟を連れて出掛けたらしい。

そして、冒頭に戻る。


「場所くらいちゃんと伝えておけってんだ、畜生!」


ファブレ邸は公爵位を持つだけあって、とにかく広い。
陽なたぼっこなんて至る所で出来るのだ。
そこから一人の人間と小さな赤子を見つけ出すのはかなり重労働である。

回線を使うかとも思ったが、あれはルークに負担が掛かるために、急ぎの用か緊急時以外は使わないよう決めている。
だからアッシュは、すれ違うメイドや巡回見回りする騎士団員の目撃情報を頼りに、地道にルークを探しているという訳なのである。

探しに探して辿り着いたのは屋敷の裏庭。
そこには一本の巨木が聳えており、アッシュはその根元で漸く愛しの朱を発見した。


「おぃ、ルー……」


ザクザクと芝生を踏み付けながらルークの名を呼ぼうとしたアッシュ。
けれど、いつもなら呼ぶ前に振り返る筈のルークの様子が違う事に気付いて、足音を忍ばせ静かに近づくと………


「…普通、逆じゃねぇか?」


覗き込んだアッシュに気付いた赤子が、キャアキャアと笑顔で騒ぐ移動用のバスケット。
それを守るように抱きながらルークだけが寝ていた。


……いやまぁコイツだって精神的には10歳程度だし?ガキのお守りで疲れてるんだって分かっちゃいるが……


「…いくら邸内だからってガキ放置して爆睡かよ……」


訪れたのがアッシュだからとは言え、ルークは身じろぎすらしない。
気ぃ抜き過ぎだろぉが…とアッシュは頭を抱えて唸った。

誰に似たのか元気溢れる弟をあやしながらそっとルークの脇に腰掛ける。
そして、起こさないようにゆっくりとルークの頭を自らの膝に乗せた。


「……ぅ…ん……」


一瞬ルークから声が上がり、流石に起こしたかとアッシュは震える瞼を見たが、そのままルークはアッシュの膝に頬摺りをして再び寝息を起て始める。

アッシュは軽く安堵の息を吐いて、その頭を撫でた。


「…ガキばっかじゃなくて、もう少し俺にも構えってんだ…」



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