平凡が一番

□ランチ
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「………」



「食べないのか?」



「食べている」



「そのわりには減っていない様だが?」



「………」



目の前の男にそう言われ、私はついさっき運ばれてきたパスタに目を向けた。
ほうれん草の緑とクリームソースの美味しそうなパスタ。
けど、何故か食欲がわかない。その理由は目の前の男ーー赤井秀一にある。
遡ること1時間前、私は赤井秀一としたくもなかった再会をはたした。

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〉1時間前ーー




「偶然とは言え、また会えて良かったよ。
久しぶりだな、ジョーカー」



「……赤井、秀一」



「ホォー…、やはり俺の名も知っていたか」



「コードネームと本名はセットだからな」



片方分かれば両方知ることが出来るーーそう言おうとしてやめた。
わざわざ相手のペースにのる必要はない。
これ以上一緒にいると、此方が引き摺られる可能性がある。
相手は私よりずっと大人で経験もある。なら、警戒するに越したことはない。



「用は無いようだな。私はこれで失礼する」



そう言って立ち去ろうとする私に、赤井秀一は時計を見た後、意外な提案をしてきた。



「もうすぐ昼時だな、一緒にどうだ」



「は?」



いやいやいや、何故そうなる!たいして知りもしない人間を普通ランチに誘うか⁉



「何故?私は貴方を一方的に“知っている”が、貴方は私を知らない。
敵か味方か分からない、そんな人間を何故誘う?」



何か意図があることはわかるが、それが何なのかが分からない。
探る様にそう言うと、またも意外な答えが返ってきた。



「俺は、君に興味がある」



はて、私は今まで目の前の男に興味を持たれる様な事をしただろうか?
私的にはそんな危ない橋を渡った覚えはないのだが…。



「興味を持った相手の事を“知りたい”と思うのは普通の事だと思うが?」



更に畳み掛けるように言葉を続ける男を私はただ見つめた。
私の知る“赤井秀一”は頭がきれ冷静沈着でそれでいて愛した人間を一途に想う事が出来、そして目的の為なら自分と言う存在を消してしまえる優しくも恐ろしいーーそんな人間だと思っていた。
なのに、今の発言は何だ!まるで口説き文句だ。
やめてくれ、私の想像していた赤井秀一の印象がガラッと変わってしまうじゃないか!ーーなんて事を考えていると不意に声をかけられた。



「着いたぞ」



その言葉に、意味がわからず顔を上げると目の前には一軒の店。
赤井秀一を見ると「行くぞ」といつの間にか繋いでいた手を引かれ、中へ足を踏み入れた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――
そして今(冒頭)に至る。



何かに集中すると周りが見えなくなる事が私の悪い癖だと言われたが、本当にそうだと今身に染みてわかった。



「はぁ…、それで?
私を食事に誘った“本当の目的”を言え」



仕方ない、暫くは様子を見つつ活路を見いだすとしますか。









(“本当の目的”?俺はただ君の事が知りたいだけなんだが)
(冗談だろ)



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