※赤井視点になります。
〉赤井秀一side
スコッチの件が片付いた後、暫くして俺はある作戦の失敗から組織から離脱した。
組織を抜けてからは、以前と同じくFBIとしての仕事をこなしつつ奴等の情報を探る、そんな日々が続いていた。
「シュウあなた、またそれ見てるの?」
「ああ」
同僚のジョディに話しかけられ、振り返らず返事だけを返し、ジョディの言うそれに目を向けた。
「そのパソコン、確かあのジョーカーのセーフハウスに置いてあったのよね?」
「ああ」
「パスワード1つで本当にロックが解除されるのかしら?
他にもトラップがあるんじゃないの」
「…いや、それは無いだろう。
ジョーカーとは一度会っただけだが、随分と素直で面倒くさがりの人物の様だったからな」
ジョディと話ながら、俺はジョーカーと初めて会った時の事を思い出した。
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ジョーカーと初めて会ったのは、組織に潜入してコードネームを貰って暫くした頃。
あの日はバーボン、スコッチ、俺の3人での任務で、それを終え駅のホームで電車を待っていた時の事だ。
「遅いぞ、ライ」
「すまない」
「まぁ、時間にはまだ早いがな」
そんな他愛ない会話をしていると、俺の後ろを一人の女が通り過ぎた。
「(今のは…)」
通り過ぎた女からは微かに硝煙の臭い。
二人もそれに気づいたのか、一瞬で空気が変わった。
気づかれないよう、距離を取りながら尾行するも途中で気づかれてしまった。
「待て!」
バーボンが叫ぶが、女は当然だが止まる様子はない。
男3人を相手に、普通の女が此処まで逃げれるだろうか?
そんな事を考えながら追うこと数分、女を漸く追い詰めた。
(…随分と大人しいな)
追い詰められたからか、目の前の女は特に怯えも警戒もせず俯いているだけ。
(長い黒髪に身長は170といったどころか…本当に女だろうか。
確かに特徴は女の様だが、身体能力はその辺の男より上だろう…、発信器でも着けておくか)
俺がそんな考えを巡らせていると、目の前の人物が顔を上げた。
(!)
上げられた顔は目の前にいた俺を見上げる形で向けられ、それと同時に目が合った。
金色の目だ。その目と合った瞬間、心臓が高鳴り何故か目が離せなくなった。
「性別は女の様だな」
目が離せないまま、俺の口から出たのはそんな言葉で自分が情けなくなった。
流石に酷いと言うスコッチとバーボンに女から一度目を離し、動揺を悟られないよう二人に話を合わせた。
だが、その話が女の気にさわったらしい。
ごく小さな声ではあったが、俺の耳にはハッキリと聞こえた。
「…正体バラすぞ」
目の前の女に目を向けると、しまったと言う顔をした後、女は誤魔化す様に笑い一目散に駆け出した。
俺達は後を追ったが、今度は追いつく事は出来なかった。
アジトに戻った俺達を出迎えたベルモットから、俺達が追いかけていた女がジョーカーであると知らされる事になった。
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「面倒くさがりでなければ、いくら大した情報が入っていないからと言ってハッキングをうけているのを放ったらかしにはせんだろう」
「たしかにそうね…。
それよりシュウ、あなた“また”休んでないんですって?
ボスからの命令よ、“休息をとるように”ですって」
「…了解」
ジョディに追い出され、外に出た先で同僚と会い話ていると、視界の端にあの時見た後ろ姿を捉えた。
(ジョーカー。
漸く見つけたーー今度は逃がしはしない)