君の知らない物語

□X次元へようこそ
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私は一体どうなってしまったのか。はっと我にかえり、荷物の確認をする。オレンジのリュックも、画材も、そして家の鍵も。そのまま私についてきたらしい。幾分か安心したものの、不安は尽きない。数分前に家を出て、見知らぬ男性に会い、そうかと思ったら今度は見知らぬ土地の森の中である。木の葉の具合からして、少なくとも自分のいた山ではない。

「まさかオオカミとか…いないよね」

ここが日本でなければ、オオカミがいてもおかしくない。いや、日本でもクマやイノシシにバッタリ、なんかはありそうだ。

聞きなれない鳥の声に、不安はさらに煽られる。木々は日を遮りあたりは薄暗い。ふと、リュックのポケットに入れていたスマホを思い出す。ここがもし海外で、通信料による馬鹿みたいな借金が生まれようと、のたれ死ぬよりはマシだろう。

そんな期待は無残にも消え失せた。圏外な上、100パーセントだった充電量は5パーセントを切っていた。

「ちょっと、本当にやめてってば」

あぁ、期待しなきゃよかったものを……。小さな長方形の画面に文句を言えど聞く耳があるわけでもなく。大きく一つため息をついたものの、私はそこまでネガティヴではなかった。

なにせ、そう、私は田舎出身。あの付近の山は私の庭であり、秘密基地であったわけだ。いける、いける。私は自己暗示をかけた。周りを見渡すと、どうやらここは道になっている。獣道か、人の道かはさておき。何かが往来したため草が禿げているのは間違いない。

「さて、どうしたものか」
前へ進むか、後ろへ戻るか。
前後なんてこれはもう私が今立っている向きでしか無いのだけれど。

「前に進もう」直感的にそれがよい様な気がした。
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