君の知らない物語

□外は戦場だよ
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羽をむしった鳥を、与一君が焚き火にくべて焼く。首を落として、逆さまにして血を抜いたやつだ。初めて鳥の血抜きなんてものを見たが、淡々と行われるその作業に、不思議と嫌悪感はなかった。

「すいません、この上着、火のそばで乾かしてもよいですか」
混乱からか少し不機嫌な持ち主におそるおそる聞いてみる。すると彼は目をまん丸くして
「服をあったのか…」
と言った。聞きなれない方言だなぁ。なんとなく予測して会話をしよう。
「土埃と血で汚れていたので」
「あいがとございもす」
ぺこりと頭をさげる。あれ、この人意外と律義?服を自分で乾かそうとしたところを、怪我人にさせるわけにはいかないと断ったところ、申し訳なか、と言われた。比較的長い木の枝を袖に通して、燃えないあたりの高さで乾かす。

「信長は死んだとかもうしたな」
落ち着いたところで眼帯男は口を開く。
「やはりわしは死んだことになっているのか」

え……つまりこの人……

「お、織田信長!?嘘でしょ!?」
急に大声をあげた私に信長が返す。
「すまんな、先ほど成り行きでこいつには教えたんだが信じてくれなくてのお」
ひどく驚いた私に、なんだか満足げだ。
「本能寺で明智光秀に謀反されて殺されたんじゃ……あ、でも骨がまだ見つかってないんだっけ……」
「もう…18年も昔の話よ!!」
怪我人の彼が返す。
「馬鹿を言えい!!18年前だと!?」
信長さんが言うには、彼がここに来たのは半年前。辻褄が合わないということで2人はまた口論を始める。そこで与一君が軽やかに笑って、自分が源平合戦の那須与一であることを口にすれば、赤い服の彼はまたもや混乱して騒ぐ。
「ぬしはっ!」
「私は篠山よすがです。ええと…武蔵と…津軽を越えたところの蝦夷で絵師をしてました」
「そげなとこ女子の足で行げなっわけがない!」
「400年以上経てば人は鉄の鳥に乗って空飛んで半日もなく行き来できる様になるんですよ!」
つられて声が大きくなる。
「そげな阿呆な…ぬしは先の世の者なのか」
勢いに負けてこくりと頷くと、かれはまた狼狽した。
「これは夢だッ間違いなく夢だ!!」
私もそう思うんだけどね、でもあなたの血の匂いも、座っている石の冷たさも、まさか夢だとは思えない。
「で、お前はどこの誰ぞ」
待ちくたびれた様に信長さんが尋ねた。
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