君の知らない物語

□Take What U Want
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豊久さんによりこれから国を盗ることになったわけなんだけれど。

「オイ」

どこか嬉しそうな信長さんに、豊久さんが突っかかる。

「何で俺を大将にする。お前がやれば良かではないか信長」
「フ、フハ、フハハハハ!裏で全てを操る黒幕が良いのだよ!!ウワハハハーッ!」

いつもの調子の信長さんに、豊久さんは不満げだ。眉根を寄せて、押し黙る。

「俺は信忠では無か」

信長さんの目が見開かれる。図星なんだ。豊久さんに、息子さんの影を重ねている。

「お前の息子は安土で死んだ!!光秀に殺されおった。俺は島津豊久。俺は織田信忠では無か!!」
「わ…わかっとるわいボケェ!!何言ってんだおまえバッカかお前!!お前なんぞ全然似てないわいボケェ」

大声を上げて反論する信長さん。あまりにも分かりやすく、本音が透けて見える。

「くだらん事言うなやあほうが」

そう言ってそっぽを向いてしまった。あの魔王が、沈んでいる。織田信長が、だ。私はそっと信長さんのそばへ寄る。やっぱり、落ち込んでいるみたいだ。

「あの、信長さん、あまり気を落とさないでくださいね。豊久さんも少し言い過ぎでは……?」

くるり。突然豊久さんの方に向き直った信長さんの顔は、魔王だった。

「俺ァお前の親父じゃーねー。家久はとうに死んだー!!俺あ織田信長じゃー、薩摩?どこそれ」

あ、魔王今地雷踏んだ。
そう思った瞬間、豊久さんの右ストレートが信長さんの顔面にヒット。かと思えばすかさず信長さんのクロスチョップが豊久さんの顔面に。

「何がどぉごんぐぞぼげぇ」
「あー?やんのかテメー!!」

豊久さんの言ってることは分からなかったが、同じ人間とは思えない喧嘩が勃発。さっきまでのしめっぽい雰囲気は何処へやら、いつもの騒がしさへ逆もどり。ため息ひとつ、私は与一君のもとへ行く。

「信長さん、元気だね。心配して損しちゃった….…よ?」

話しかけた傍ら、掛け声をつけて信長さんに飛び蹴りをかましにいった与一君。弓じゃないんだ。それよりも、あの、あなたたち、今日あれだけ動いてまだ動き足りないの……?

「やめてくれ!!」

狼狽も一周回って呆れ果てていた私。声をあげたのはエルフの若者だった。
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