君の知らない物語

□Numb
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エルフの先導で、夜通し歩いて森を抜ける。もちろん休憩も仮眠もあったが、緊張で意味をなさなかった。慣れない重装備。迷惑はかけられない、弱音は吐けない。状況はエルフたちも一緒だろう。戦うのなんて、数十年ぶりなのだから。時折信長さんが大仰に励ましの言葉をかける。きっと兵の士気を落とさないための工夫だろう。

「ノブさん、あれが代官の城です」

先導の声に顔を上げると、思い描いたような西洋風の城が建っていた。時間は朝の9時から11時といったところだろうか。太陽の位置からしてお昼は過ぎていないはずだ。

「さて、手順は分かっておるな」

信長さんの顔は、いつもと同じ笑顔だった。





「本隊は各村を巡検制圧中でアリマス!!我らは途中経過の報告にマイリマシタ、門を開けられよ!!」

始まった、トロイの木馬。怪しまれないように、笑顔を張り付ける。

「報告を…報告せい」

建物から出てきた中年の男は醜いほどにでっぷりと太り、イメージ通りの小賢しい悪代官であった。こいつがエルフたちを苦しめていたんだ、そう思うと嫌悪感で吐き気がしそうだった。

「どうであった、やはり反乱か!?」

信長さんはぽい、と兜を捨て去って前に一歩出た。

「うむ、で、あるに」
「漂流者…耳長共…ッ」
「ここはもらうぞ」

一斉に兜を脱ぎ捨てる。久しぶりに頬に直接あたる風が心地よい。なにより、狼狽している悪代官の顔。相当間抜けな顔だ。

「暑か!!動きづらか!!」

豊久さんは甲冑の上から西洋風の鎧を着こんでいたのか。やっぱり彼は赤が似合う。そのままの勢いで悪代官の襟を掴んで持ち上げる。

「女ども捕えちょるんはどこじゃ」
「ひ…ひっ塔だッ塔の中だッ」

それだけ聞き出すと、豊久さんは悪代官を放り出す。


「行くど」

数人のエルフたちが後に続く。私も鎧を投げ捨てて、スケッチブックを取り出し、大急ぎで後を追う。なるべく前へ、前の方へ。

城の中には鎧を着た人と、普段着のままの人と半々くらいがいて、大半は剣を交えることもなく降伏していった。剣を落とした者に、剣を振るおうとするエルフを、豊久さんは制止していた。くだり首とやらは恥、だそう。今ごろ村から死に物狂いで逃げ出した兵士たちは、与一君に地獄を見せられているだろう。そちらに行った方が良い絵が描けただろうか。目の前の赤を追いながらそう思う。

着々と塔の奥まで進む。扉を開け、捕らえられたエルフがいないか中を確認する。扉を開けるたびに、エルフたちの焦りが伝わってくる。







ある扉を蹴破った時だった。

中には尊厳を踏みにじられているエルフたちがいた。
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