君の知らない物語

□堕天國宣戦
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こんなにぐっすりと昼寝をしたのはいつぶりだろう。青い匂いに包まれて、いつの間にか横になってしまったようだ。目が覚めたのは既に陽が赤く燃えている頃だった。どこからかエルフたちの笑い声が聞こえてくる。隣にいたはずの豊久さんが消えているのと共に、彼の赤い羽織りが私にかけられていたことにも気付く。

「あれ…与一君?」

すぅ、すぅ、と規則的な寝息が聞こえる。彼もまた緑と日向に誘われて眠ってしまったらしい。私は少し思いあぐねて、結局起こすことに決めた。もうすぐ夜だし、これから美味しいものが食べられるというのに功労者の1人が不在というのも難だ。名前を呼びながら肩を軽く叩くと、眠たげな声をあげて、ゆったりと与一君は目覚めた。

「ん…よすが…? あぁ、もうこんな時間か…」

ぼそぼそと独り言のように呟き、寝惚け眼を擦りながら大きなあくびを1つすると、顔つきがいつもの凛々しい与一君に戻った。

「ありがとうございます、よすが。そしておはよう」
「おはようございます、与一君。早速だけど、ご飯食べに行こうか」

えぇ。そう与一君は短く返して立ち上がり、伸びをする。

「その羽織はお豊の?」
「はい、私知らぬ間に横になってたみたいで…。豊久さんが冷えないよう掛けてくれたみたいです」
「へぇ〜お豊が…」

与一君は顎に手を添えニヤニヤしている。

「豊久さん確かに戦闘狂だけど、ちゃんと優しい部分もあるから…その、変だとか、からかっちゃダメですよ」
「うーむ…分かりました」

何だか判然としない顔をしている。本当に大丈夫だろうか。



2人で庭にできた人の輪に向かうと、代官の城には相当な食料があったようで、美味しそうな料理がたくさん並んでいた。エルフたちがキャンプファイヤーのように火をたいて、男女かまわず歌や踊りを楽しんでいる。ファンタジー世界のお約束通り、彼らは本当に美しい。

「おーヨイッチ〜よすが〜丁度今起こしに行こうと思ってたところだにゃ〜」

そう信長さんが言って近づいてきた。手に持った皿には、麦だろうか、何やら主食のようなものが乗っている。

「日の本とは味は違うが、飯うめぇわ」

もぐもぐと頬張りながら喋る信長さん。

「ヨイチさーん!!こっちに来てくださーい!!」

中心にいた1人のエルフから声がかかって、与一君は失礼、と言って向かっていった。どこか嬉しそうだ。

「よすがのお目当は大将かの?」
「え、あぁ。羽織返さなくちゃいけなくて」
「ほれ、あそこに居るぞ」

指差された方には、これまた肉やら何やら詰め込んでいる豊久さんが座っている。
信長さんにお礼を言って、私は豊久さんのいる方へ歩いていく。
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