君の知らない物語

□凛として咲く花の如く
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ジルドレは十字の槍を振り、その軌跡にある全てのものを薙ぎ倒して行く。

その猛攻をかわし、瓦礫を避け、鮮やかに与一くんは弓を射る。何本もの矢を放ち、当ててなお、ジルドレは一向に怯まない。いや、死なないと言った方が良いだろう。首に、胸に、腕に、どんな急所に刺さろうとも、ジルドレの動きは一切揺らがないのだ。与一くんの顔にも焦りが見え始める。きりりと口を真一文字に結び、顔からは笑顔が消えた。これが廃棄物というものなのか。お互いに一歩も譲らない。

若武者は弧を描き、飛び跳ね、いとも簡単に的を穿つ。優美で、うつくしく、凛としていて、それでいて穢らわしいのだ。あぁ、たまらない。

刹那、二本の矢がジルドレの頭を射抜く。

与一くんの口元が少し緩む。
殺った、と。




しかし、ジルドレは何一つ変わらなかった。

鎖を四方に展開し、あっという間に与一くんの首を締め上げる。

「射て!!射て!!与一を死なせるな!!」

騎馬隊を殲滅させたのか、森から帰ってきた信長さんがエルフを引き連れ加勢する。それでもなお、与一くんはギリギリと締め付けられ、気道を確保しようと鎖の間に挟めていた弓が悲鳴を上げ、荒れていく。整った顔が歪み、冷や汗がダラダラと頬を伝っていく。

与一くん、こんな所で死んじゃうのかしら。あんなにうつくしいのに。

不死身の怪物などいないと、信長さんは叫ぶ。エルフたちは何度も矢を放つ。背中一面に矢が穿たれようとも、ジルドレは力を緩めない。


そのときだった。
一台の荷馬車がこちらへと猛スピードで走ってきた。荷台には3人の男。誰もが急な出来事に混乱するなか、よく通る声の男が、荷台にすくっと立って言った。

「世界が憎いか!!『廃棄物』!世界から棄てられた彷徨う怨嗟!!」

その声は凛々しく、場の視線を集めるに十分であった。

「最後の弾装!!こいつでカンバンだ」
荷台に乗っているハットを被った男はそう言うと、何やら長方形の箱を移動式の大砲のようなものにはめ込んだ。
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