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□人狼の棲
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 隙間風で揺れる行灯が、お世辞にも広いとはいえない部屋を、ぼんやりと照らしていた。
 土方さんはいつものように文机に向かって、するすると筆を動かしている。
 壁に寄りかかり、斜め後ろからその様子を眺めながら、僕は彼に「まだ終わらないんですか」と、何度目かの催促を仕掛けた。そしてこれも何度目かの、大きなため息とともに「もう少しだって言ってんだろ」と、こちらを振り向かない彼の声が聞こえてくる。

「そんなに仕事溜まってたなら、誰かに振ってあげればよかったじゃないですか」
「俺がやったほうが早えんだよ。つうか総司、てめえが手伝うっつう考えは端からねえのか」
「だって面倒くさいんですもの。そもそも、それって僕にできることですか?」
「……まあ、こういうのは、おまえより斎藤の役目かもな」

 こちらを見ることもなく、土方さんは淡々とそう答えた。
 彼の言うとおり、僕にできることはあまり多くはない。副長のそばにいつも付き添って、文句ひとつ言わない斎藤くんに任せられる仕事のほうが、きっと多いのかもしれなかった。
 けれど、僕は自分にできることはきちんとこなして、成果だってあげている。それなのに、なんだか敗北感のようなものが拭えず、少しいらっとした。

「僕とはじめくんは、違いますから」

 つん、と拗ねたような口調になってしまったのが不本意で、僕は土方さんの背中から目線を外した。
 静まり返る部屋で、衣擦れの音がやけに大きく聞こえ、ふと首をひねると、土方さんが筆を止めてこちらを振り返っていた。
 薄暗い部屋でもわかる、彼の端正な顔つきに僕はつい見惚れてしまう。

 揺らめいた灯が、土方さんの顔にいっそう暗い影を落とした。
 その瞬間、彼がほんの僅か笑ったような気がして、僕は「土方さん、」と彼の名を呼ぶ。

「いいや、同じところもあるな」
「……え?」

 畳にこぶしをひとつついて、くるりと、土方さんは僕のほうへ身体ごと向き直った。そうして、僕の顎にそっと手を忍ばせて、

「俺のこと、好きだろ。おまえも、あいつも」

 そう言って、彼は僕に口づけた。柔らかく、ねっとりとした感触が、唇を割って入ってくる。
 あまりに突拍子のない行為に、僕は思わず「ちょ、ちょっと」と土方さんの身体を押し返す。
 仕事は終わったんですか、としどろもどろに問う僕に、彼は「こういうのは、おまえの役目だろ」と言って、反撃しようとする僕の口を、再び塞いだ。


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