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□たとえそれが手のひらの上でも
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首絞め××××の話。
「痛っ、」
オレの声なんて聞こえてないとでも言うように、総司のごつごつとした手が、オレの首をゆっくりと絞めてくる。
気の遠くなるようなしつこい愛撫のあと、ぐずぐずになったオレのなかで、彼の熱いものがじわりと熱を帯びた。
締まりがよくなるから、とかなんとか言いながら、セックスのとき総司はたまにこうしてオレの首を絞めてくる。ただでさえ体力を使う行為をしているのに、そんなことをされては息苦しくて、本当に死んでしまいそうだった。
「なあ、総司」
「なに?」
「なんでおまえいつも、オレのこといじめてくんの」
呼吸が詰まって、意識が飛んでしまいそうなのに、それでもオレの先端からはつうと透明な液があふれてきていて、それが総司の下腹部を卑猥に汚してしまう。
「……嫌なようには、見えないんだけどね」
そう言いながら、総司は手を離してくれた。
白けた視界が急激に色を帯びて、何度かまばたきをすると、柔らかい笑みを浮かべた彼が、じっとこちらを見下ろしている。
それは、普段学園で見かけるような、本音を悟らせまいとする表面的な笑顔だった。
こうして裸になって、肌を重ねて、オレは総司の下でなにもかもさらけだすのに、いつも彼はこうして余裕のある笑みをたたえて、ぐしゃぐしゃにとけたオレを見つめている。
「嫌だよ。見りゃわかんだろ。毎回死にそうなの、オレ」
「大丈夫、平助を死なせたりしないよ」
「そういうことじゃねえって。つうかなに、どこからくるんだよ、その自信」
「僕は平助のこと、ずっと昔から見てきたから」
どこまでやればオレが死ぬのか知っている。オレがどんな反応を返すかわかっている。そんな口調で、総司は淡々と答えた。
その境界線を攻め立てていくように、彼は再びオレの首に手をかける。
総司と触れ合っている内部が収縮して、それに反応するように、総司のものがふっと膨らんだ。
無意識に腰が跳ねてしまい、その瞬間、ぱちりと視線が合う。
ずっと昔から変わらない、緑色の瞳に見つめられ、思わず顔を背けると、上から苦笑が降ってくる。
「それに比べて、君はなんにもわかってないね」
呆れたような口調で言われ、なにが?とこちらが問う前に、口を口で塞がれた。
そっとついばむようなキスを落とし、文句は受けつけないよ、とでもいうようにひどくゆっくり離れた唇が、やわらかな笑みを刻む。
「僕がどうして君をいじめるのかって、そんなの決まってるじゃない。笑顔も泣き顔も、苦しむ顔も、意地張った顔も、全部見たいからに決まってる」
「……は?」
「小さい頃から、平助のいろんな顔を見てきた。どの表情も、僕は好きだよ。けど、その表情だけは特別。愛しくてたまらない」
「……?」
オレが首をひねると、総司はそっと腰を引いた。彼を離したくないとでもいうように、オレのなかはきゅうきゅうと総司を締めつけている。
先端のあたりまで引き抜いたところで、総司は腰を勢いよく打ちつけた。
重たいその衝撃に、オレの下半身がぐっと持ち上がって、一層深くまで彼の熱が届く。
もうだめだ、とオレは今にも泣きそうになっていた。苦しさと気持ちよさが相まって、全くわけがわからない。
オレ、今どんな顔をしてるんだろう。きっと自分でも見たことのないような、ひどく情けない表情に違いない。
そんな顔を、オレは今、総司に見せている。
なんて恥ずかしいことをしてるんだろう。誰にも見せたくないはずなのに、総司には見せてもいいって、そう思ってしまう。
「ねえ、その顔、もっと僕に見せて」
慈しむような優しい声音で、彼はそう言った。オレのなかを掻き乱す、卑猥な音が室内に響く。
初めて道場で会ったときのような、教室でくだらない話をするときのようなままの総司で、彼はオレを乱していく。
そのことにひどく興奮してしまっている自分に気がついて、自分の性癖に呆れすら覚えた。
「総司、」
「ん?」
「オレのこと、もっといじめて」
かたちのいい唇がふっと笑みを刻んで、ちゅ、と肯定のキスが降ってくる。
ああ、もっとぐちゃぐちゃにされたい。彼のその手で、身体中、征服されてしまいたい。
昔から変わらない深い色の瞳を見つめ返しながら、オレは彼の与える苦しくて愛しい快感に溺れていくのだった。