ハイキュー 長編

□決闘
1ページ/1ページ

「及川!及川はいるか?!」

 突然下から響いた大きな声に、俺は盛大にため息をついた。

 顔を見ずとも、声で分かる。

「もう帰ってきやがった…」

 しかし呼ばれているのを無視するわけにもいかないので、ものっすごく嫌そうな顔をつくりながら、下に降りて行く。

 ほらやっぱり。声の主はこの城の主、ウシワカちゃんだ。

「何、呼んだ?」

 ウシワカちゃん一週間くらい出掛けてたけど、もうちょっと出かけててもよかったんじゃあないかなぁ。
あと軽く十年は。

 俺のそんな心の内を知ってか知らずか、ウシワカちゃんは仕切り直すようにゴホンと咳払いをした。

「及川。お前に大事な話がある。」

 …大事な話? はっ、まさかこの流れ、俺と結婚してくれ的なやつ?
 えーちょっと勘弁してよウシワカちゃ〜ん。

「…お前、また下らない事考えているだろう。」
 
 はい、すみません。ちょっとだけふざけました〜。

「そんなんでこの先大丈夫か?」
 
 お前に心配される義理はないっつーの。

「まぁいい。及川。お前はもう大王及川を正式に名乗っても良い歳になった。」

 別に名乗りたくないんですけど。

 ってゆーか待って?!俺まだ(正式に)大王様じゃなかったの?!

 や、確かに魔法は完璧にマスターしたのに皆前と態度変わんないなぁとか、むしろ前より扱い酷くない?とか思ってたけどさぁ!

 …あ。俺まだ大王じゃねーわ。何で気付かなかったかな。

 なんて、嬉しいようなそうでないような複雑な気持ちの俺に構わず、ウシワカちゃんはさっさと話を進めた。

「さて、及川。お前が大王を名乗るのにあたり、しなくてはならない点をいくつか説明する。」

 もっかい言うよ?別に名乗りたくないんですけど。

「及川、お前、魔法決闘はやったな。」

 フル無視ですか。もういいや。

「うん。覚えてるよ。俺超上手だったよね。」

 
 魔法決闘実習は、俺は嫌いじゃなかった。なんてったって、相手がウシワカちゃんだったからね。
 魔法ぶつけまくりのかけまくり☆
 あれはいいストレス発散だったなぁ。
 機会があればまたやりたいよ、ウシワカちゃんに。

「んで、それがどうしたの。」

「あぁ、明後日から、お前にはまたそれをやってもらう。」

「え、ウシワカちゃん相手に?」

 ヤッター☆

「いや、大王討伐隊。つまり人間だ」


…は?今、なんて言った?


「人間が相手…?」

「そうだ。悪の大王なんだ、お前を憎む者も増えてくるだろう。お前はそんな奴らを―」

 ガッ!

 気がつけば、俺はウシワカちゃんの胸倉を掴んでいた。

「お前、それ本気で言ってるの。人間を傷つけるなんてそんな酷いこと、するわけないじゃん。
第一俺は、人から憎まれるようなことしてないよ!」

 怒鳴る俺を見て怯むそぶりすら見せず、ウシワカちゃんは淡々と言った。

「それについては問題ない。」

「はぁ?!」

「最近、俺がよく城を空けていたのは、町へ行っていたからだ。なぜだか分かるか。
俺がお前に変化して人々に悪事を働いていたためだ。
人間達は今、お前に対してはらわたが煮えくりかえっているだろう。」
 
…お前、ホント。

 本当に。

「最ッ低。」

 こんなことってないだろう。

「ねぇ、ウシワカちゃん?お前さ、本当に人の心がないんだね。それともお馬鹿さんなのかな。
ふざけんなよ。後継ぎだか何だか知らないけど、何で俺がウシワカちゃんのために憎まれなくちゃいけないんだよ?
何で人間相手に戦わなくちゃいけないんだよ?!」

 
 昔人間だった俺に、よくそんなこと。


 ウシワカちゃんは、そこで初めて表情を崩した。

「人の心、か。」

「…」

「及川、お前、自分の姿を鏡で見てみろ。そこにうつっているのは、人間か?」

「!!」


 言葉を、失った。


「下らない話はもう終わりだ。明後日から大王討伐隊の相手、よろしくたのんだぞ」

 そう言ってウシワカちゃんは踵を返すと、すたすた行ってしまった。

 でも、俺にはまだ言いたいことがある。だから、ウシワカちゃんの背中に向かって叫んだ。

 俺は。

「俺は!人間だよ!だから何もしてない人達に酷いことなんてしたくない!」

 そこで、ウシワカちゃんの足がぴたりと止まった。そして、ゆっくりとこちらをふり返りながら、思い出した様に言った。

「及川。俺はお前をここに連れてきてから十年間、ずっと言わなかったことがある。」

「…何のこと。」

「お前の人間だった頃の一番大切な記憶。
それを今、俺が持っている」

「は?!それってどういう―」

「返してほしければ、俺の言う通りにしろ」

 それだけ言うと、ウシワカちゃんは今度こそ
行ってしまった。

 呆然とした俺をおいたまま。





続く

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ