ハイキュー 長編
□決闘
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「及川!及川はいるか?!」
突然下から響いた大きな声に、俺は盛大にため息をついた。
顔を見ずとも、声で分かる。
「もう帰ってきやがった…」
しかし呼ばれているのを無視するわけにもいかないので、ものっすごく嫌そうな顔をつくりながら、下に降りて行く。
ほらやっぱり。声の主はこの城の主、ウシワカちゃんだ。
「何、呼んだ?」
ウシワカちゃん一週間くらい出掛けてたけど、もうちょっと出かけててもよかったんじゃあないかなぁ。
あと軽く十年は。
俺のそんな心の内を知ってか知らずか、ウシワカちゃんは仕切り直すようにゴホンと咳払いをした。
「及川。お前に大事な話がある。」
…大事な話? はっ、まさかこの流れ、俺と結婚してくれ的なやつ?
えーちょっと勘弁してよウシワカちゃ〜ん。
「…お前、また下らない事考えているだろう。」
はい、すみません。ちょっとだけふざけました〜。
「そんなんでこの先大丈夫か?」
お前に心配される義理はないっつーの。
「まぁいい。及川。お前はもう大王及川を正式に名乗っても良い歳になった。」
別に名乗りたくないんですけど。
ってゆーか待って?!俺まだ(正式に)大王様じゃなかったの?!
や、確かに魔法は完璧にマスターしたのに皆前と態度変わんないなぁとか、むしろ前より扱い酷くない?とか思ってたけどさぁ!
…あ。俺まだ大王じゃねーわ。何で気付かなかったかな。
なんて、嬉しいようなそうでないような複雑な気持ちの俺に構わず、ウシワカちゃんはさっさと話を進めた。
「さて、及川。お前が大王を名乗るのにあたり、しなくてはならない点をいくつか説明する。」
もっかい言うよ?別に名乗りたくないんですけど。
「及川、お前、魔法決闘はやったな。」
フル無視ですか。もういいや。
「うん。覚えてるよ。俺超上手だったよね。」
魔法決闘実習は、俺は嫌いじゃなかった。なんてったって、相手がウシワカちゃんだったからね。
魔法ぶつけまくりのかけまくり☆
あれはいいストレス発散だったなぁ。
機会があればまたやりたいよ、ウシワカちゃんに。
「んで、それがどうしたの。」
「あぁ、明後日から、お前にはまたそれをやってもらう。」
「え、ウシワカちゃん相手に?」
ヤッター☆
「いや、大王討伐隊。つまり人間だ」
…は?今、なんて言った?
「人間が相手…?」
「そうだ。悪の大王なんだ、お前を憎む者も増えてくるだろう。お前はそんな奴らを―」
ガッ!
気がつけば、俺はウシワカちゃんの胸倉を掴んでいた。
「お前、それ本気で言ってるの。人間を傷つけるなんてそんな酷いこと、するわけないじゃん。
第一俺は、人から憎まれるようなことしてないよ!」
怒鳴る俺を見て怯むそぶりすら見せず、ウシワカちゃんは淡々と言った。
「それについては問題ない。」
「はぁ?!」
「最近、俺がよく城を空けていたのは、町へ行っていたからだ。なぜだか分かるか。
俺がお前に変化して人々に悪事を働いていたためだ。
人間達は今、お前に対してはらわたが煮えくりかえっているだろう。」
…お前、ホント。
本当に。
「最ッ低。」
こんなことってないだろう。
「ねぇ、ウシワカちゃん?お前さ、本当に人の心がないんだね。それともお馬鹿さんなのかな。
ふざけんなよ。後継ぎだか何だか知らないけど、何で俺がウシワカちゃんのために憎まれなくちゃいけないんだよ?
何で人間相手に戦わなくちゃいけないんだよ?!」
昔人間だった俺に、よくそんなこと。
ウシワカちゃんは、そこで初めて表情を崩した。
「人の心、か。」
「…」
「及川、お前、自分の姿を鏡で見てみろ。そこにうつっているのは、人間か?」
「!!」
言葉を、失った。
「下らない話はもう終わりだ。明後日から大王討伐隊の相手、よろしくたのんだぞ」
そう言ってウシワカちゃんは踵を返すと、すたすた行ってしまった。
でも、俺にはまだ言いたいことがある。だから、ウシワカちゃんの背中に向かって叫んだ。
俺は。
「俺は!人間だよ!だから何もしてない人達に酷いことなんてしたくない!」
そこで、ウシワカちゃんの足がぴたりと止まった。そして、ゆっくりとこちらをふり返りながら、思い出した様に言った。
「及川。俺はお前をここに連れてきてから十年間、ずっと言わなかったことがある。」
「…何のこと。」
「お前の人間だった頃の一番大切な記憶。
それを今、俺が持っている」
「は?!それってどういう―」
「返してほしければ、俺の言う通りにしろ」
それだけ言うと、ウシワカちゃんは今度こそ
行ってしまった。
呆然とした俺をおいたまま。
続く