ハイキュー 長編
□決意
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話が終わった後、俺は自室に戻るなり一直線にベッドの上に倒れこんだ。
頭の中が、ぐちゃぐちゃの状態だった。そして、ベッドの近くに置いておる鏡をちらと見やる。
『自分の姿を鏡で見てみろ。そこにうつっているのは、人間か?』
つい先程言われた言葉が胸をさした。
返す言葉も、なかった。
「ぐっ…、うぅっ…、ひっ…」
角やしっぽが生えてるのなんか些細なこと!って言って、もうとっくの昔に乗り越えたと思ってたのに。
涙があとから、ぼたぼた落ちる。
「…っ、口に、出されて言われると…辛いなぁ…」
最低、最低。ウシワカちゃんの馬鹿。
さっきもうちょっと言ってやれば良かった。
でも。
それをすんでの所で耐えたのは、ウシワカちゃんの言葉が胸に引っかかったからだ。
俺の一番大切な記憶って何のことだろう…。
悪いけど全く覚えてないですけど。
一番大切ってことは、中々忘れることはないってことでしょ。うーん…。
泣いていたことも忘れ、俺は頭の中の大切な記憶とやらを何とか探そうとする。
だけどやっぱり、ぜーんぜん思い出せない。
そもそも最初っからそんなのなかったんじゃねぇのって位に。
…はッ!もしかして、これはウシワカちゃんの策略?!
俺は思わずがばっと起き上がった。
人間に固執する俺に、人間だった頃の俺の大切な記憶と言う名の餌を撒いて、俺に大王業やらせようって魂胆だな?!
なんっっってやつだ!
今すぐ文句を言いに言ってやろうかと思ったけど、ウシワカちゃんが今どこにいるのかも分かんないし、そもそもあいつの顔を見るのも嫌だったのでやめた。
それに、さっきのは仮定だし、ね。
うーん、俺って大人!
とは言っても、ウシワカちゃんに猛烈に腹が立っているのは変わらない。
明後日には、大王討伐隊の人の相手をしなくてはならないのだ。
やるせない気持ちのまま、俺はもう一度ベッドに身を沈めた。
こんな時に、あの夢の中の男の子が出てきてくれたらいいのに…。
いつもみたいに、罵詈雑言を交えながらも俺を励ましてくれたらいいのに…。
…ん?
ちょっと待て。何か引っかかったぞ?
夢の中のあの子は、俺に何と言った?
確か、『やっぱり覚えてねぇか』的な事を何か言っていたはず。
所詮夢の中の話、と、笑い飛ばす余裕のなかった俺は、とっさに頭をフル回転させた。
俺はあの子に会ったことがあるのかも、という俺の読みは、あながち間違ってはいなかったかもしれない。
もしそうだとすれば、彼のあの砕けた口調からして、かなり親しい関係だったんじゃないだろうか。
夢の中で彼に懐かしさを感じてしまう位だ。
ということはもしかしたら…
【彼は俺の大切な記憶に関わる、実在するとても大切な人なのかもしれない】
と予測出来る。
まだ思い出すことは出来ないけれど、夢の中で言葉を交わすうちに、彼が俺にとって大切な存在になっていったのは分かる。
だから、このまま忘れっぱなしになんてしたくない。
見てろよウシワカ野郎。
「やってやろーじゃん、大王討伐隊との決闘」
絶対に、大切な記憶を取り戻す。
続く