ハイキュー 長編

□決意
1ページ/1ページ

話が終わった後、俺は自室に戻るなり一直線にベッドの上に倒れこんだ。

頭の中が、ぐちゃぐちゃの状態だった。そして、ベッドの近くに置いておる鏡をちらと見やる。

『自分の姿を鏡で見てみろ。そこにうつっているのは、人間か?』

つい先程言われた言葉が胸をさした。

返す言葉も、なかった。

「ぐっ…、うぅっ…、ひっ…」

角やしっぽが生えてるのなんか些細なこと!って言って、もうとっくの昔に乗り越えたと思ってたのに。

涙があとから、ぼたぼた落ちる。

「…っ、口に、出されて言われると…辛いなぁ…」

最低、最低。ウシワカちゃんの馬鹿。

さっきもうちょっと言ってやれば良かった。

でも。

それをすんでの所で耐えたのは、ウシワカちゃんの言葉が胸に引っかかったからだ。


俺の一番大切な記憶って何のことだろう…。

悪いけど全く覚えてないですけど。

一番大切ってことは、中々忘れることはないってことでしょ。うーん…。

泣いていたことも忘れ、俺は頭の中の大切な記憶とやらを何とか探そうとする。

だけどやっぱり、ぜーんぜん思い出せない。

そもそも最初っからそんなのなかったんじゃねぇのって位に。


…はッ!もしかして、これはウシワカちゃんの策略?!

俺は思わずがばっと起き上がった。

人間に固執する俺に、人間だった頃の俺の大切な記憶と言う名の餌を撒いて、俺に大王業やらせようって魂胆だな?!

なんっっってやつだ!

今すぐ文句を言いに言ってやろうかと思ったけど、ウシワカちゃんが今どこにいるのかも分かんないし、そもそもあいつの顔を見るのも嫌だったのでやめた。

それに、さっきのは仮定だし、ね。

うーん、俺って大人!

とは言っても、ウシワカちゃんに猛烈に腹が立っているのは変わらない。

明後日には、大王討伐隊の人の相手をしなくてはならないのだ。

やるせない気持ちのまま、俺はもう一度ベッドに身を沈めた。

こんな時に、あの夢の中の男の子が出てきてくれたらいいのに…。

いつもみたいに、罵詈雑言を交えながらも俺を励ましてくれたらいいのに…。


…ん?


ちょっと待て。何か引っかかったぞ?

夢の中のあの子は、俺に何と言った?

確か、『やっぱり覚えてねぇか』的な事を何か言っていたはず。

所詮夢の中の話、と、笑い飛ばす余裕のなかった俺は、とっさに頭をフル回転させた。

俺はあの子に会ったことがあるのかも、という俺の読みは、あながち間違ってはいなかったかもしれない。

もしそうだとすれば、彼のあの砕けた口調からして、かなり親しい関係だったんじゃないだろうか。

夢の中で彼に懐かしさを感じてしまう位だ。


ということはもしかしたら…


【彼は俺の大切な記憶に関わる、実在するとても大切な人なのかもしれない】

と予測出来る。

まだ思い出すことは出来ないけれど、夢の中で言葉を交わすうちに、彼が俺にとって大切な存在になっていったのは分かる。

だから、このまま忘れっぱなしになんてしたくない。


見てろよウシワカ野郎。

「やってやろーじゃん、大王討伐隊との決闘」

絶対に、大切な記憶を取り戻す。






続く

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ