ハイキュー 長編

□仲間
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窓から漏れる光と鳥のさえずりで、俺は目を覚ました。

結局、あの男の子が夢に出てくることはなかった。なので朝から気分は最悪だ。くっそ。

あの子の事を考えると同時に、昨日の事もじんわりとよみがえってくる。

「はぁぁ。」

無意識に、朝っぱらからでっかいため息をついた。

やってやろーじゃん、とは思ったけれど、一晩ぐっすり寝て冷静になった今、とてもじゃないけど人間と戦うなんてこと、出来る気がしない。

別に、ヘタレとかそーゆーやつじゃないからね。及川さんは優しい心の持ち主なだけだからね。

でもね?俺の言い分も聞いてよ。

そりゃ確かに記憶は取り戻したいけど。

夢の中のあの子は、俺とどんな関係だったのかとか知りたいけども。(や、まだ関係あるって決まったわけじゃないけどさ。)

俺は、ウシワカちゃんの言う事に従うのが、そもそも気に食わないんだよ。

人間と戦うこと以外で、ウシワカ野郎から俺の記憶を取り戻すことは出来ないだろうか。

例えばこっそり盗むとか。

そこまで考えて俺は、一つ大切な事に気がついた。


そもそも記憶ってどんな形してんの?

…。

あっれぇぇぇぇぇ?! そっからぁぁぁぁあ?!

作戦をたてる云々の前にそれすらも分からないじゃん!
ましてやどうすればいいのかなんて知るはずも無く。

「ぐぅ〜。」

あ、今のは俺の腹の音。あーもう、朝から頭働かせたからお腹すいちゃったよ。

てか昨日夜ご飯食べてないし!

どれもこれも全部ウシワカちゃんのせいだ。

ぶつくさ文句を言いながら、俺は食堂へ朝食をとりに行った。






食堂に入って席に着いた俺の背後から、聞き慣れた声がした。

「おはよ〜及川。朝からご機嫌斜めだねぇ」

…。

仮にももうすぐ大王様になる俺に軽ーい感じで挨拶をする召使いのトサカ頭をジト目でにらむ、なんてこと、もうとっくの昔にやめている。

というか、あきらめた。

だって言っても聞かないし。タメなんだからいいだろ?なんて言われたら、何も言えない。

それに、俺とトサカ頭、もとい黒尾はいわゆる…友達だから。

まぁ、たまにはちったぁ敬語使えよって思うことはあったけれど。

最近はいちいち言うのも何だか面倒臭くなって、普通に受け流している。

「おはよう、黒尾。今日のパン何?」

この城のパンは全て、黒尾がまかなっている。

それ位、黒尾はパンを焼くのがとても上手い。

特に牛乳パンなんか、そんじょそこらのやつなんか比べ物にならない位絶品だ。

「今日は、ほうれん草とにんじんのパン」

「ふーん…」

あからさまにがっかりした俺に、黒尾は苦笑する。

「しょうがねぇだろ。いっつもお前の好みに合わせてたら、毎日牛乳パンになっちまうじゃねぇか。」

ぐっ…。否定出来ない…。

「ほれ、絶対うめぇから食ってみろって。焼きたてだぞ。」

そう言って黒尾が持ってきた皿の上には、緑色とオレンジ色の可愛らしいパンが乗っていた。

お、美味しそう…。

喉をごくりと鳴らした俺を見て、黒尾がにやりと笑う。

くやしいけど、
「…いただきます。」

「はい、どーぞ」

揶揄めいた口調で言われても、美味しいものは美味しい。

二つのパンがすっかり気に入った俺は、結局おかわりまでしてしまった。






朝食をとり、食堂を出た俺は、お腹をさすりながら庭をプラプラしていた。

だってごはん食べすぎちゃったんだもん。

本当はゴロゴロしてたいけど、食べてすぐゴロ寝するとウシワカに…じゃなかった、牛になるって言うじゃん?

というわけで、食後のお散歩中。

さて、じっくり明日の事を考えるとしますか。

明日の事って言うのはモチのロン、大王討伐隊との戦いについて。

気が重くなっちゃうよ…。

はぁ、とため息をついた俺の視界に、ふと綺麗な花がうつった。


確か…この花は、清水さんが育てていたはず。

始めは話かけてもガン無視状態の清水さんだったけど、最近はそうでもない。

時々笑顔もまじえてくれる様になった。

こんなに綺麗な花を育てている彼女は、きっと心も綺麗なのだろう。

それに、彼女をとても慕っている(崇拝している?)田中君とノヤ君も、とても良い人達だ。

二人して仲良く今日は潔子さんのこんな所が良かったとか何とか語っている姿はちょっとアレだけど、二人の意思の強さやストレートな言葉は、こちらからはとても好感が持てる。


ここの城の召使いの人達は、たまに(つーかしょっちゅう)俺をからかったりするけど、皆良い人達ばかりだ。


そんな人達が周りにいるという点では、俺はとても幸せなのかもしれない。


でももし。

もし俺が大王討伐隊との戦いをしなかったら、皆はどうなってしまうんだろう。

もし、城が攻め込まれて、皆に被害が及んだら?

皆が、死んでしまったら?

恐ろしい事を考え、俺はぶるりと身震いをした。

そんなこと耐えられない。

でも、人間相手に戦うことなんて出来ない。

こういうものをジレンマっていうんだろうか。

いや、分かってる。ただのわがままだ。

けれどもそんな迷いも、皆の顔を思い浮かべたらほとんど消えた。



大王討伐隊の人達は、大切な人を守るために俺を殺しに来る。

でも、俺にだって大切な人達がいるんだ。

その人達を傷つけるというのなら…。

殺す、なんてことはしないけれど、それなりの覚悟はしてもらう。

俺は皆を守って、そんでもって記憶も取り戻す!



そう決意した俺の近くで、がたりと音がした。

生垣の方だ。しかも何だかもぞもぞ動いている。人間だろうか。

近くで見てみようと思い切って近付いても、向こうは俺が気づいてる事に気付かないのか、逃げる気配が全くない。

それどころか、黒い人間の毛髪らしきものが見えている始末。長さからして、多分男。

おーい、おにーさーん。見えてますよー。
ちっとも上手に隠れてませんよー。

いい加減じれったくなった俺は、そいつを驚かせてやろうと決めた。

そろーり、そろーり。せーの、

「わっ!!」
「うおおっ!?」

「ぶはははははは!おにーさんぜーんぜん隠れられてなかったよ?!バレバレだっ…て…」

俺は思わず息を飲んだ。


だって。


夢の中のあの男の子がそのまんま大きくなったような。

それほどまでにそっくりな男の人が、夢でなくそこにいたんだから。






続く

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