Hero of the End〜Legend of Zelda〜

□第三話
1ページ/1ページ

「神託…ですと?」
教会の奥にある狭い客間。
アウロラと神父、そしてレアンドロスとローリスが席に座っている。
「あぁ、詳しい話は本人からしたいと頼まれていてな。
私も聞いてないが、二人に関係していることは確かだ」
「い、い、一体誰からの神託なのですか!」
神父が声を荒げる。この世界では神託が絶対である。
神託を告げる者は城下町の中心にある神殿の巫女たち。
…しかし、見習いの神託であれば否定することも可能である。
神父にとって、もうすぐ貴族に嫁ぐローリスを奪われては困るのだ。
「…何者でも構わないだろう?
ここは教会で、神の言葉を信じる場所だ」
アウロラは表情を変えずに告げる。
「い、いえ、そうなのですが…何せ、ローリスは嫁入り前でございます。
今は準備のほうで忙しくて…」
「何が言いたい」
「み、見習いの者のお告げであるのならば、断りたいと…」
神父は恐る恐る告げる。
それを見ていたローリスは、アウロラの目を見つめる。
(赤い瞳…)
このラトアーヌの異形の姿の者達を受け入れる騎士団。
それをすべる騎士団長アウロラ。
彼は一体何者なのか。何故、彼が直々に来たのか。
ローリスはチラリとレアンドロスを見る。
レアンドロスも同じことを考えていたのか、視線が交わった。
騎士団長は王家と直結している。
ただの神殿の巫女であれば、こうして来ることもないだろう。
ならば、考えられるのはただ一人。
「神託を告げたのは、王女であるネール殿下だ。
…異論はあるか?」
アウロラは足を組む。その威厳はまさに騎士団長。
「ネ、ネール殿下が…」
神父が項垂れる。この国の最高権力者であり
巫女達よりも優れた神通力を持つ王女ネール。
彼女の命令とあれば、従うしかない。
「あの」
ローリスが声を上げる。
「…私がいなくなったら…この教会、潰れちゃうんです」
「あぁ、そこも配慮している。
君と彼が一生稼いでも足りないぐらいの金を今度部下に持ってこさせる」
「え、そ、それは本当ですか!?」
神父が机に身を乗り出す。レアンドロスは顔を顰めた。
腐ってもここは教会だと、何度も心の中で自分に言い聞かせる。
この場所で行うことを全て神は見てくださっている。
「私は嘘だけはつかない」
「あの、そうなったら俺達は…一体何処で暮らせば?」
「君達のこれからの住居は明日案内する」
ローリスが再びレアンドロスを見た。
神託の内容が気になる。
その内容は、果たして自分たちが幸せな道なのか。
「金は渡す。二人を受け渡す。いいな?」
「もちろんですとも!ネール殿下の神託とあれば!」
ローリスは顔には出さないが、スカートの裾を握りしめた。
その手をレアンドロスが強く掴む。
いい方に考えればいいのだ。王女ネールの神託のおかげで
二人はバラバラになることはない。さらに、この教会から離れることができる。
もう、神父から邪魔者扱いされることはない。
(女神ハイリアよ。貴方に感謝します)
レアンドロスは心の中で十字を切った。
「家具などを持っていく暇はない。
二人の必要最低限の荷物を整理し終えたら出発をする。
できるなら今日中だ。いいな?」
「もちろんです」
「わかりました」
二人はコクリと頷く。そして一度お辞儀をすると、二人は部屋を離れた。
部屋からなるべく速く遠ざかるように足早に去って行く。
「レアン」
「どうした?」
「私達、これからも一緒よ」
「あぁ」
二人で一緒にいることができる。それは幸せなことだ。
だが、神託の内容が気になる。それは二人とも同じであった。
神託の内容が「二人を生贄に捧げる」であれば
一緒にいることはできても、意味はない。
「ネール姫に会えるのかしら」
「本人から言いたいって言ってるんだから会えるだろ」
「そうね。きっと綺麗な人だわ」
「…ローリスは昔からお姫様が好きだからな」
「女の子の憧れだもの」
クスクスと二人で笑ってそれぞれの部屋へと別れる。
レアンは自分の衣類と黒いネックレスを袋に入れると
ローリスの部屋の前で彼女が出てくるのを待った。
彼女も持っていく物が少ないのか、すぐに出てくると
二人は再び客間へと足を向けた。

「仕事が早いな」
「いえ、持っていくものは少ないですから」
ローリスが微笑んで言うとアウロラは立ち上がった。
「では、この二人を貰っていく」
「え、えぇ…」
二人は顔を見合わせた。先ほどまで意気揚々と嬉しそうに
身を乗り出していた神父が縮こまっている。
「この二人に二度と干渉しない。約束は忘れるな」
「は、は、はいぃ!」
神父が逃げるような声で返事をすると、アウロラは鼻で笑って
客間を出て行った。二人もそれに続く。
教会を出た後、アウロラの馬の近くに数人の騎士団員達が
馬車を連れて待っていた。
レアンドロスはローリスを後ろに隠すと
騎士団員の中でも一番物腰が柔らかそうな男性が前へ出てくる。
「団長。馬車を用意させていただきました」
「あぁ、助かった」
「それから、神父に関しましては…」
男が二人を見て口を濁らせる。
だが、レアンドロスとローリスにはしっかりと聞こえた心の声。
(神父が裏口から逃げている?何故?)
よくわからない言葉に二人は眉間に皺を寄せる。
「全てお前達に任せる」
「はっ」
「レアンドロス。ローリス。馬車に乗れ。
今日は一度宿に泊まるが、その後真っ直ぐに宮殿へ向かう」
「わかりました」
「はい」
「それから、お前達はラッキーだったな」
「「え?」」
「いずれわかる」
アウロラは自分の馬に乗ると、馬車の先頭へ立った。
そして、二人も馬車へと乗せられる。
(ラッキー?)
やはりアウロラの意思は読み取ることができない。
何がラッキーだったのか、さっぱりわからないまま、二人は馬車に揺られた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ