Hero of the End〜Legend of Zelda〜

□第四話
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王都ラトアーヌの中心、城下町の栄えようといったら仕方がない。
夜まで輝かしいその街に見とれながらも二人は
一晩、城に近い場所の宿で過ごすと、早朝から馬車に揺られ
この国の中心にある宮殿セティパレスへと向かった。
セティパレスはその名の通り白い宮殿である。
白。穢れなきその色は美しくこの国の誇りである。
レアンドロスがいた教会にもこの国のシンボルである
白い薔薇がたくさん植えられていた。
「ねぇ、レアン」
「どうした?」
「きっと、騎士団に入ることより
貴族の家の娘になることより
ずっとずーっとすごいことを言われるんだわ」
「…そうだといいな」
「きっとそうよ」
セティパレスについたころにはすっかり日は昇り
人々が仕事で忙しくしている時間であった。
「レアンドロス様。ローリス様。
こちらでございます」
馬車が止まり、降りるように指示を受けると
降りた先にいた侍女らしき人が着いてくるように言う。
ネール姫様がこんな田舎者と会うなんて…
二人は聞きたいことが山のようにあったが
この侍女に聞くのは正解ではないと気付き、黙ってついていった。
二人が行く場所は王の間だと思っていたのだが、予想を相反して
客間へと連れて行かれた。
「アウロラ団長様!」
「やぁ、レアンドロス。ローリス」
そこにあるソファに座っていたアウロラは二人の来訪を見て微笑んでいる。
「先に来ていたのだが、二人とも気分はどうだい?」
「緊張しています」
「そうだろうな。一国の姫に会うことはそうそうないからな。
…まぁそこのソファに座ればいい」
アウロラと対面になるようにソファに座ると
二人はドクドクとなる心臓を抑えて姫を待った。
姫の噂はたくさん聞くが、彼女の容姿についての噂は聞いたことがない。
何故なら彼女は誰と会うにしても白い布一枚越しに喋るからだそうだ。
その髪の色も、目の色も、来客が知ることはないらしい。
美しい金髪なのでは。目の色は茶色か?
前国王が美しい茶髪だった。女王は金髪だったな。
二人の美しいところが受け継がれているのだろうか。

コンコンコンっ

礼儀正しいノック音が三つ。

ガチャリ

返事も待たずに入ってこれる人物は、一人しかいない。
「待たせてしまいましたね。
レアンドロス、ローリス。会いたかったわ」
レアンドロスとローリスは即座に立ちあがった。
目の前にいる豪奢なドレスを着た女性。
水色の髪に水色の瞳。口元はヴェールで隠されているものの
その姿がこの国の者と違う異形の姿であることはすぐにわかる。
「姫君。時間は?」
「あまりありません。すぐに本題に入りましょう」
アウロラの質問に即座に答えた王女ネールは
二人に対面になるよう、アウロラの隣に座った。
「お前達。茶を淹れたらすぐに出なさい。
大事な神託を告げる時です」
「かしこまりました」
ネールの言葉に即座にお茶を淹れ、去って行く侍女達。
侍女や護衛もなしに二人と会って平気なのだろうか。
…いや、アウロラと言う最強の護衛がいるじゃないか。
信用されたわけじゃない。
「二人とも。はるばるラトアーヌの遠くからよく来ました」
「いえ」
「こちらこそお招きいただきありがとうございます」
「早速本題に入ります。先日、私が見た予知夢…。
つまり、神からのお告げです」
「その前に、本当にこの二人なのか確かめてくれ」
アウロラの言葉にネールはローリスとレアンドロスの顔を交互に見るとコクリと頷いた。
「この二人で間違いありません」
ネールは二人を見つめた。
彼女は二人に対して微笑んでいるのか、ヴェールによって隠されているため
彼女の真意を探ることができない。
(…姫にも、黄金の霧が…)
アウロラにも感じた心を読み取ることができない黄金の霧。
二人は思わず顔を顰めそうになり慌てて無表情へと戻す。
何か無礼があれば打ち首は免れないだろう。
だからと言ってヘラヘラと笑うのも気が引ける。
「私が見たのは、このラトアーヌの城下町のどこかにある
【闇】の神の魔力である厚く黒い雲がこの大地を覆い隠す瞬間」
「…この、大地を?」
「しかし、その雲から一筋の光が差すと
赤い髪の者と、緑の髪の者が立っていました」
この話は、自分達を生贄にするということだろうか。
それとも…。
「私は以前より二人のことを知っていました。
そしてこの夢を見た時に、貴方達だとすぐに気づきました」
ネールはそこでチラリとアウロラを見る。
彼はネールの視線に気づいているが、何事もないように
紅茶を一口飲む。
「…そして、貴方達の周りに四人の者達が立っていたのです」
「…四人?」
ローリス、レアンドロス以外の四人。
この場にいるネール姫とアウロラを足しても足りない数。
「もちろん、私達ではありません」
「じゃあ、一体?」
「この国が五つの種族に分かれていることは、わかりますね?」
ネールが住まうセティパレスを中心とした王都ラトアーヌ。
王都から外を線引きするように立っている城壁の向こうには
四つの部族たちが住まうと言われている。
人を迷わせる森。昼には暗く、夜には明るい森に住まう風の部族【風鷹族】。
人を誘惑する声を持ち、湖の底に住まう水の部族【水妖族】。
人を殺すような灼熱の炎の火山のもとに住まう火の部族【竜火族】。
人を惑わす幻覚の砂漠に住まう百の顔を持つと言われる土の部族【岩土族】。
それぞれが東西南北に分かれている。
「風、水、火、土…それぞれの力を持つ者達が四人。
そして貴方達…それこそがその黒い雲をかき消す一筋の光なのです」
ネールは膝に置いた手をぎゅっと握りしめる。
「…俺達は、一体どうすれば?」
「まず、その夢に出てきた四人の者達を集めなければいけない。
だからこそ私がここに呼ばれたんだろう?」
「えぇ、その通りです」
困った顔をしている二人をよそに涼しい顔をするアウロラ。
その様子を見てコクリと頷くネール。
「アウロラは若いながらも外の世界を知っています。
彼がいれば説得もうまくいくでしょう」
「私達も、旅をするんですか?」
「えぇ」
「生贄ではなく?」
「まさか!私達が欲しているのは貴方達の血ではなく
貴方達の知恵と力、そして勇気です」
レアンドロスとローリスは顔を見合わせる。
その姿にアウロラは少し笑うと、ネールが咳払いをする。
「私が案内するんだ。安全だと思っていてくれ」
「はい」
「わかりました」
「旅の用意はこちらでさせていただきます。
2,3日後、早朝より出発してもらいましょう。いいですね?
レアンドロス。ローリス」
「「はい」」
二人の返事にコクリと頷いたネールはパンパンと手を鳴らす。
その音にドアの外にいた侍女たちが扉を開けて入ってくる。
「この者達を部屋へ連れて行きなさい」
「承知いたしました」
「アウロラ。貴方にはこれからのことで相談をしたいので
残っていただけますね?」
「了解しました。愛しの姫君」
アウロラがその場で軽く跪くと、侍女達はレアンドロスとローリスを連れて
二人がこれから泊る部屋へと案内した。
「こちらがお二人に過ごしてもらう部屋でございます」
「あ、ありがとうございます」
「何かありましたら、そちらの鈴をお鳴らしください」
「はい」
「では」
侍女達が去って行くと、緊張の糸がほどけたのか
二人は目の前にあるソファに腰を掛ける。
「疲れた…」
「あの二人、何者だろう」
「心が読めなかったな」
ソファは今まで座って来たどの椅子よりもふかふかで
目を瞑ればこのまま眠ってしまいそうだ。
「…それに、二人とも変に顔を隠しているわ」
「確かに…」
一国の王女と騎士団長。顔を隠さなくてもいいはずなのに
アウロラは顔半分を隠す仮面を。
ネールは口元を隠すヴェールを付けていた。
「今まで、二人が顔を隠しているって言う噂は聞いていたけれど」
「本当だったな」
別に今日が特別顔を隠していたわけじゃない。
元々仮面を付けている。ヴェールで顔を隠している。など
たくさんの噂は聞いていたのだ。
だが、まさかあそこまで顔を隠されているとは…。
「顔半分だけど、表情が読み取りにくかったわ」
「それに、心が読めない…」
黄金の霧は、元々ローリスにも感じるものがあった。
明確に黄金の霧が見えるわけでもなく、何故か読み取ろうと
その声を聞こうとすれば、靄のような、霧のようなものが声を覆い隠すのだ。
それをレアンドロスとローリスは黄金の霧と呼んでいる。
だが、今までそれが見えたのはお互い、レアンドロスとローリスのみ。
他の人はあの二人が初めてであった。
「…生贄じゃないって」
「そこはきっと嘘じゃないと思うわ。
一国の姫が人を騙すようなこと、しないと思うの」
「あぁ、俺もそう思ってる。だけど…俺達みたいな田舎者が
このラトアーヌから出ることができるのか?」
このラトアーヌを覆う高い城壁。その向こうに行けるのは
限られた戦士たちのみである。
四つに分かれた部族たちに会いに行くにしろ、平原を超えて行かなければならない。
その平原には、幾多もの魔物達がおり、命の危険が多い。
それに、部族たちもラトアーヌ人に対して友好的ではないと聞いていた。
それをこんな田舎者であり、王家の血を継ぐ者でもなければ
騎士団長のような役職についた者でもない。
立派な仕事をしているわけでもないし、ましてやこの異形の姿。
「…ただ、ネール姫様のお告げはいつも真実だと聞いているわ」
「あぁ…俺達が行くのはきっと間違いないんだ」
ずっと憧れていた外の世界へ。二人で行くことができる。
外の世界はどんな世界なのだろう。きっと美しい。
黄金に輝く世界だけが広がっている。
「とにかく、明日を信じよう」
「そうね、レアン…貴方と一緒なら、大丈夫」
「俺もさ」
二人はそれぞれの分けられた寝室へと入っていった。
持ってきた荷物は少ない。貴族たちのように荷物整理をすることもなく
軽く湯あみをするとそのままベッドへと入り、深い眠りへと落ちた。

ローリスは夢を見た。
その者を連れて行ってはいけません!
白い服を着た黄金の髪の女が叫ぶ。
その者を連れて行けば後悔することになる!!

レアンドロスは夢を見た。
その者を連れて行くな
黒い服を着た灰色の髪の男が笑う。
その者を連れて行けば後悔することになる

その者とは、一体誰なのか。


―――――それはいずれ…――――――――

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