White Beard Family

□White Beard Family3
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「よぉ、マルコ」
「なんだよい」
「ま、眠れなくてさ」
「奇遇だねい…俺もだ」
酒瓶片手に甲板へと現れたサッチを見てふっと笑うマルコ。
隊長格である二人が不寝番をやることは滅多にない。
それにサッチは料理長として朝から早いし、マルコは時折偵察で寝ずに帰ってくることもある。
そのため二人は不寝番をやることがないと言っても過言じゃない。
では二人は何故夜中に起きているのか?
「…おじさんって…一体何歳からおじさんなんだ」
「…よい…」
やっぱり心のどこかで引っかかっていたらしい。
子供の悪意のない純粋なる言葉「おいたん」が彼らの心を抉る。
「俺はよぉ、まだっまだっまだ若いお兄さんの類でもいいはずなんだ!」
「…やっぱり三十過ぎるとおっさんって奴なのかねぃ」
「なんだとぉ!?俺はまだまだ若いお兄さんだ!」
「若いお兄さんってのはエースとかに言うもんだろい」
サッチ、酒瓶をぐびっと飲みほす。
サッチから漂うお酒の臭いからマルコに会いに来る前から随分と飲んでいたらしい。
マルコは飲んではいないが、やはり眠れなくて来ているわけだし
おチビさんの言葉が気になってたのは事実。
コイツと変わらないのか、なんて思いながら夜空を見上げる。
満天の星空にまぁるい月。それを見上げるオッサン二人。
「なぁサッチ。この夜空、どう見える」
「んぁ?そうだなぁ…雲一つねぇけどあっちの方は曇ってるから
明日は曇りになりそうだな。とかか?」
「エースだったらどう思う」
「あー、綺麗な星空だなーとかか?」
「そこが「おじさん」と「若いお兄さん」の違いじゃねぇのかい」
「なんだとっ!?」
まぁ、このグランドラインで生きるためには航海術は少しでも知っていなくてはダメだ。
だが末っ子エース、何にも思わず綺麗なものは綺麗。なんて言う。
そこが若いとオッサンの違いなんだろうか。
いや、たぶんエースが純粋なだけじゃないか。なんて思いながらも
サッチは再びぐびりと新しい酒を飲み込む。
「それにしても昼のあれはでかすぎだろい」
「まぁよ。あんな可愛いお姫様に「おいたん」って言われてるんだ。
嬉しくないわけじゃないからな、ホットケーキ作ったわけだけどよ」
「嬉しそうに食ってたねぃ」
「そうだなぁ…」
オッサン二人がおチビさんの笑顔を思い出してニンマリする。
普段笑わないマルコも笑っているということは、明日雨が降るだろう。
「マルコ隊長!サッチ隊長!大変ですっ!!」
「どうした!!」
「敵襲か!?」
「い、いえ、それが…」
「どうしたんだよぃ」
何故か船員の歯切れが悪い。
「何があったんだよい」
「…マルコ隊長の傍にいた小さい女の子の部屋。
前を通り過ぎたら扉が開いてたんです。
不思議に思って中を覗いたら誰もいなくて…」
彼女は帰ってしまったのだろうか。たまたま今日いただけなのだろうか。
ただ、扉が開いていた?何か嫌な予感が…。
「びああああああああああああああああああああああああああ」
嵐のような声がする。少女の泣き声だ。
「あっちだよい!」
サッチもマルコも走りだす。甲板の端で大泣きしている少女を見つけた。
どうやってここまで来たのか知らないが、だいぶ泣いている。
「お、おい!大丈夫かよい!」
「ああああああああああああああああああああああ」
「サッチ!サッチおじさんだよ!」
「うあああああああああああああああああああああああ」
「マルコ!マルコおじさんだよい!」
「うぇぇえええええええええええええええええええええ」
あぁ、先ほどまであんなに嫌がってたおじさんを使ってでも彼女は泣きやまない。
一体全体どうしたらいいのだろうか。誰か助けてくれ。
「ママぁああああああああああ」
「「ママ?」」
「ママがいないのぉおぉおおお」
あぁ、そうか。彼女はここに来る前、ママと一緒にいたのか。
なのに目が覚めればおじさんだらけのこの船で、寝ても覚めてもおじさんだらけ。
大好きなママはいない。
「よぃ。ママはちょっといないだけだよい」
「…マ、マ、マルたんんんん」
やっと、マルコの存在に気が付いた。
「大丈夫だから、安心しろい」
「マルたんっ…ぅっ…ぐすっ」
「サッチも一緒だからね」
「シャッチ…うぅ…」
マルコがそっと抱きしめてあげてポンポンと背中をあやす。
すると、熱い息ではあるが、だいぶ落ち着いてきた少女。
ここに来る前も泣くのを我慢して歩いていたのか、目は相当腫れている。
そして彼女はとてつもなく眠たそうだ。
「寝ていいよい」
「マルたんいっちょじゃなきゃ、やっ」
「俺が?」
「んっ」
「しょうがないねぃ」
マルコがおチビさんを抱き上げる。
「あ、そういやお前の名前、知らないよい」
「おチビさんのなまえ?おチビさんっていうの」
「そうかい、おチビさんかい」
サッチがいつもより穏やかで優しい眼差しをしているマルコを驚いた様子で見る。
白ひげ海賊団一番隊隊長。そこにつくためにどれだけ自分に厳しく
周りにも厳しくいなければならないというだろうか。
なのにこんなに優しい表情をしたマルコを見たことがない。
「よし、寝ようかねい。サッチはどうする」
「俺ももう酒が回って来たし寝るよ」
「そうかい」
「シャッチ、くしゃい」
「うっ」
その後、サッチは船員たちに泣き明かしたそうな。
そして、ちゃーんと、マルコと寝れた少女は幸せそうだったらしい。
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