Hero of the End〜Legend of Zelda〜

□第五話
1ページ/1ページ

朝を迎えた。いつもより遅い朝だ。
レアンドロスは窓から差し込む光に目を覚ました。
一度、見慣れない場所に焦ってしまったが
昨日のことを冷静に思い出し、自分が今セティパレスにいることを思い出す。
(…俺が、王都ラトアーヌの中心に…)
この国、クリスタリアには五つの都がある。
以前も述べたように五つの種族からなっているこの国は
それぞれの種族の都があった。
その中でも中心にそびえるラトアーヌは王都とも言われ
城下町とも呼ばれている。
…とはいえ、レアンドロスが今まで住んでいた場所を城下町と言うには
セティパレスから遠すぎた。
王都ラトアーヌには見えない区別の線がある。
レアンドロスが住んでいたラトアーヌの南の端にある田舎者と呼ばれる住宅街。
北に行けば貧民街となり、中心に行けば行くほど豊かな町となる。
貧民街に行く者はほとんどいないが、レアンドロスの住む一般の住宅街の
静けさを好む貴族たちが大きな屋敷を建て
年に一度休暇を楽しむこともあった。
ただ、一言言ってしまえばそれだけ退屈な場所だったということである。
レアンドロスはその静けさが嫌いではなかった。
…だが、間近に見える王都ラトアーヌと外の世界を区別する城壁を
見上げては、何度もつまらない場所だと思っていた。
だが、今はそのつまらない場所ではない。
王都ラトアーヌの中心にそびえるセティパレス。
その名の通り純白の宮殿は美しく、穢れていない。
そんなセティパレスで寝泊まりできる人間がこの世界にどれだけいるのか…。
きっと王家の血筋をもつ貴族の者たちのみであろう。
レアンドロスはどこか高鳴る胸の鼓動に気づいていた。
同じ世界にいるのに、世界が違うように見える。
抑えきれないこの鼓動。

コンコンっ

不意に扉からノック音が響く。
「…レアン、起きてる?」
「ローリス!今起きた」
カチャリと控えめにローリスがドアを開ける。
彼女の格好はいつもと違い、キラキラとした華々しいドレスを身に纏っている。
「どうしたんだ?ローリス…その恰好…」
まさか、貴族の家にまた嫁ぐとでも?
「早く顔洗って用意した方がいいわ。
私達、朝食をネール姫と過ごせって」
「え?」
「正装をしなきゃいけないから朝早く起こされて…。
きっとレアンのほうにももうそろそろ…」

コンコンっ

「どうぞ」
「失礼いたします。
レアンドロス様の洋服の替えをお手伝いに来ました」
昨日見た侍女達とは違い、気を効かせたのか執事たちのようだ。
「ほら、顔を洗った方がいいわ」
「…わかった」
その後、軽い身支度を済ませたレアンドロスを
慣れた手つきで着替えを手伝おう執事達。
彼らに案内されて二人はネール姫が待っている【騎士の広間】へと移動した。

「…やっと来たか」
「お座りなさい。レアンドロス。ローリス」
円卓に座るネール姫と向かいあうように座る二人。
そしてネール姫の隣にはアウロラがついていた。
…他に食事をする相手はいないようだ。
「あの、どうして私達を?」
「あら、客人をもてなすのが城の主としての務めです。
…それよりも、二人ともよく似合っているわ」
「あ、ありがとうございます」
「かしこまらなくていいわ。ただの食事の席なのよ?」
「えっと…」
二人はアイコンタクトだけでお互いの心情を探る。
この国の頂点に立つ五つの長であり、王都ラトアーヌの姫ネール。
彼女にどうしたら気軽に話しかけられるというのだろうか。
「ネール。お前はまた召使達をこき使ったな?」
「あら、だってとっても暇そうだったのよ」
「…そりゃ結構なことだ」
「それに、こうして二人とお食事するのは初めてだもの」
「だからってわざわざ正装させなくてもよかったんじゃ?」
「私の趣味よ?悪いかしら」
二人は目を見開く。…一応相手は姫である。
だが、まるで姫は昔から自分達と会いたかったかのように話している。
…田舎者である自分達に、何故?
食事が出されてからは緊張故に何も喋れなかったわけだが
それでもアウロラとネールのやり取りは続く。
彼女達は姫と団長としての立場ではなく、友人と話して…
いや、もっと親しい仲として話している様子だった。
「アウロラ。好き嫌いはダメよ」
「それは君のことだろう?プリンセス」
「あら、私は好き嫌いなんてしないわ」
「じゃあそれはなんだ?」
「…えへっ」
「全く…これじゃあいつ誰が来ても大丈夫ってわけじゃないな」
「何よっ!失礼ね…」
…親しい仲。というのも恋仲のようである。
これは見ていいものだったのだろうか。
国家機密に触れてしまっている気がするのは二人だけか。
「…でも、噂通り、ってわけなのかも」
「確かに」
「どうかしたのかしら?」
「「いえ」」
キョトンと首を傾げるネールにちょっとクスリと笑う。
彼女と団長殿の恋の話は聞いていた。
二人はおおよそ“召使の誰かが作り上げたロマンチックな物語”だろうと
思っていたのだが、案外そうじゃないらしい。
姫と団長の距離が近いだの。二人はよく秘密の園であっているだの。
お互いに身分が離れているのに呼び捨てで呼び合っているなど。
様々な噂が今までたくさん飛んできたが…。
「ネール。あまり二人に緊張させるな」
「あら、そうさせているのはアウロラ。貴方でしょう?」
…確かに、二人の距離は近い。かなり。
「あ、の…」
ローリスが恐る恐る声を出す。
「お二人は、私達のことを知っているのですか?」
その言葉を聞いて二人は顔を合わせる。
そして、クスリと笑ってこちらを向く。
「当り前よ。ローリス。その質問は愚問だわ」
「え」
「私が貴方のことを知らないとでも?」
「だって、そりゃ私達ド田舎の人間だから…」
「でも、緑の髪の女の子は他にいない」
「でも」
「そして、水色の髪の女の子もね」
「あっ…」
そこで二人は察する。彼女の容姿を思い出してほしい。
いや、彼女達の容姿を思い出してほしい。
ネールはこのラトアーヌのトップであるにもかかわらず
ラトアーヌの平均的な姿ではなく、美しい水色の髪に水色の瞳だ。
気にしていないのかドレスまで水色を着ている。
そして、アウロラ。異端の姿をした騎士達を纏める長であるからこそ
その宝石のように赤い髪に同じく赤い瞳だ。
そして、ローリス。彼女達と同じく瞳も髪も同じ色である。
ただ違うのは緑色、という点だけ。
…よく見れば、ここにいる四人は全員ラトアーヌの人間として
おかしな容姿をしている。だが、何故かそれがピッタリとハマっている。
「レアンドロス。貴方のことも気にしていたの」
「え?」
「だって、とても強くて勇敢で、心の温かい人物でしょう?」
ネールにそう問われて目を丸くさせる。
「二人はずっと教会で手を取り合いながら生きてきた。
その容姿で差別されながらも、決して崩れることなく…。
私はそんな二人の噂を騎士達から聞いて、とても感動したのよ」
今度はレアンドロスとローリスが顔を見合わせる番だった。
なんだか、姫。王妃。と言う名に怖気づいていたのかもしれない。
…彼女達は当たり前のように、自分達と同じ人間であり
自分達と同じ価値観を持っている人間である。
「私とアウロラもね、幼馴染なの」
アウロラがやれやれと肩を竦める。
「彼女の話は長いぞ?」
「いいじゃない。こんな話滅多にできないわ」
「聞きたいです。私、ネール姫の話」
「俺も」
「…物好きばかりでよかったな。ネール」
「じゃあ、小さな女の子の話を始めるわ。
彼女である私、ネールは異端の姿で生まれたお姫様だった」
クスリと彼女は笑って語り始める。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ