ベロニカの咲く頃に

□1
1ページ/2ページ

バキ、バキ、と音を立てながら山道を歩く。躊躇いもなく枝を踏む。足元には木の枝やら落ち葉やらでほとんど埋め尽くされており、地面の土がチラホラと見えているだけだ。
もう何キロ歩いたのだろうか。早く着けよ。なんで着かないんだよ。まあ、そんなことを考えても仕方がないが。
季節はまだ春だというのに、その事実を裏切るかのように首筋に汗が流れていく。いや、まだ、と言うよりも春になったばかりだ。

誰だこんな山道に校舎なんか建てた奴は。夏になれば登校するだけで下手したら熱中症で死ぬぞこの野郎。
そんな愚痴を心の中で零しながらも足は止めずに進んで行く。
少し息が切れてきた頃、木造の建物が見えてきた。
やっと、やっと着いた。家から徒歩10分、電車で15分、さらに徒歩で15分、そして学校に辿り着いたと思いきやそこからまた30分かけて、やっと着いた。登校だけで1時間以上かかってんじゃんか。これをまた帰る際にやるのかと思うと気が重い。いや、これから1年間通うのだから来年まで週5で繰り返して過ごすのか。なんなの馬鹿なの阿呆なの殺されたいの。そんなの耐えられる気がしない。というか私が許さん。

時間を確かめようと制服のポケットから携帯を取り出すと、ちょうど朝の8時だった。ナイスタイミング。8時10分までが登校時間で他人にはギリギリ遅刻を免れたと思われるかもしれないが、私にはこの方がちょうどいい。一応担任にも挨拶をしに行かなければ。
そう思い職員室に向かう。いや、向かおうとした。しかし、残念ながら私は職員室がどこにあるのかまるでわからない。ここから旧校舎を見ても、広い空間に机が綺麗に並べられてるのが窓越しに見えるから教室はどこにあるかわかるが職員室は校舎の外からひと目でわかるものではない。…とりあえず校舎の中に入ろう。


下駄箱に外靴を入れ、上履き袋を鞄の中から取り出す。私の下駄箱がどこにあるのか、これもまたわからないので、とりあえずお客様用の下駄箱に入れておいた。上履き袋を畳んで鞄にしまい、上履きを履いて歩き出した。
見たところ、長い廊下がひとつあるだけなので、これならすぐ見つかるな、と一安心。

思った通り、そのまま真っ直ぐ歩いて行けば、職員室と書かれた札のある扉を見つけた。その扉の前に立ち、ノックを3回。

「すみません、今日から転校してきた竹内梨乃ですが、」
「ああ、君が転校生か。俺が担任の烏間だ。よろしく」
「あ、はい、よろしくお願いします」

目の前の目付きの悪い黒髪の男、もとい烏間先生は席から立ち、こちらに手を差し出してきた。それを見て握手を示しているのだとすぐに理解し、私も手を差し出す。挨拶をしたときにナチュラルにセリフを遮られたような気がしたけどそんなの気にしない。
やはり本物は、何と言うか、迫力がある。今まで画面越しに見てきた烏間先生も本物だけど。

「暗殺の件については部下が説明したそうだな」
「はい、聞きました。国家機密の怪物を暗殺して欲しいのだとか」

あのときは驚いた。実は昨日、理事長さんに呼ばれ本校舎へ行った。その帰りに、突然スーツを着た数人の大人が話しかけてくるものだから驚くどころか少々ビビった。何故か人気のない山道を少し歩いたところで話を切り出された。なんでだよ。カルマみたいに自宅で説明されるんじゃないのかよ。そもそも人目につかないとはいえ、こんなところで話すとか普通に考えておかしいだろ。心の中で盛大に突っ込みながらも話は聞き流していた。そう、聞き流していた。気付いたら対先生用ナイフと拳銃を渡されスーツを着た大人達はどこかへ去ってしまっていた。


だが、漫画も読んで、アニメも見ていたので特にこれと言った問題はなかった。ちゃんと昨日渡された対先生用ナイフと拳銃も持ってきている。
それにしても、あの大人達って烏間先生の部下だったのか。

「ならば話は早いな。ナイフと拳銃は持っているか?」
「はい、必要になると思ったので」
「…すまない。本来なら君達は、最後の中学校生活を何事もなく過ごしていたはずだ。…国の為、地球を救う為だと思って協力してくれ」
「大丈夫です。それに、面白そうじゃないですか、先生を暗殺できる教室なんて」
「…そうか」

「ところで、ターゲットは今どちらに?」

先程から殺せんせーの姿が見られない。職員室に入ったときも烏間先生しかいなかった。まだホームルーム前、と言ってもあと2分で遅刻になる。もう既にここにいてもおかしくない時間なのだが。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ