ベロニカの咲く頃に

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突然、それはなんの前触れもなく、窓から大きな風が吹いてきた。防衛省で鍛え上げられた烏間先生でさえも、身を守るように両腕で顔を隠してしまうような、風が。職員室全体に机の上の書類が舞い上がり、砂埃のようなものに包まれる。その中から現れたのは、アカデミックドレスを着た黄色い生物。
あ、アカデミックドレスっていうのは海外の学生が卒業式で着るような衣装のことね。ホグワーツの制服みたいなやつ。なんとなくイメージできた?要は殺せんせーのいつもの服装ってこと。

「ふ〜危ない危ない、もう少しで遅刻するところでしたねぇ。教師が遅刻など以ての外!いや〜本当に危なかった!」

烏間先生ですら顔を伏せたのだ、中学生の私が大丈夫なはずがない。咄嗟に職員室の引き戸にしがみついてなんとかなったものの、今にも飛ばされそうな状態であったため、 もしそのまま突っ立っていたらと思うとゾッとする。

危なかった、と言いながらハンカチで汗を拭いていたその姿は、まるで人間のような素振りであった。見た目は黄色いタコ、中身は人間?某探偵漫画の彼のような異端さだが、比べ物にならないほどこのタコの方が珍妙さを上回っている。

「おや?見かけない顔ですねぇ。烏間先生、この子は?」
「彼女は今日からE組の一員だ」
「つまり、転校生と言うわけですね。お名前は?」

そいつは烏間先生と一言交わしたあと、こちらに目を移してきた。
見かけない顔、などと言っているがこいつも昨日E組に来たばかりのはずだ。
いや、そんな事はどうでもいい。問題はこのタコの態度だ。お名前は、だと?ふざけんな私は幼稚園児か。身長だって平均超えてるわこの野郎。人は第一印象が大事だとよく聞くが、まさにその通りである。右も左もわからないような小さい子に声をかけるように話しかけられたのだ、悪印象でしかない。

「竹内梨乃です。1年間よろしくお願いします」
「えぇ、こちらこそどうぞよろしく」

もちろん、そんなことは顔に出さず、自己紹介をした。そいつは触手をうねうねと動かしながら挨拶をした。
ところで、既に彼は殺せんせーと呼ばれているのだろうか。いや、それならば先程の挨拶に殺せんせーと呼んでください、と一言添えたはずだ。梨乃は先ほどの疑問をすぐに頭の中からかき消した。


キーンコーンカーンコーン…

そんなこんなしているうちに、予鈴が鳴った。と、言うことは、今の時刻は8時10分。ホームルームが始まる時間だ。

「では、早速教室へ向かいましょうか」

彼はドアを開け、職員室から出て行く。廊下を歩いて行くのを、私は静かに後ろからついて行く。それにしても、この校舎は本当にボロい。建設されてから、軽く10年以上は経っているのだろう。しかも、木造であまり手入れがされてないように見受けられる。夏はクーラー無しの環境に耐えられそうにない。ああ…本校舎が恋しい…。おいそこ、お前転校生だろ本校舎なんて何度か足を運んだくらいだろとか言うな。
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