番外編

□先生
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元々は中学の時の家庭教師だった。
親の知り合いの子どもだと聞いてうちに週一回の約束で来ていた。
始めは成績維持のためと親の付き合いだったが、受験生になり週二回に増えることになった。
その時ニールは社会人になったが、自主的に経験を積みたいからと継続して家庭教師となってくれた。

その時からニールのために頑張りたい。
ニールのいる場所に近付きたい気持ちが膨らんでいた。

だが、それから段々煮詰まる事が増えて、苛々するばかりになったときニールはドライブと称してよく夜に色々連れていってくれた。
そんな時に連れてきてもらった高台がある、一面の海と星の綺麗な此処に二人でいた。

男二人。

大人と子ども。

保護者と子供。

間違いなくそう見えている二人。
星を見上げる俺に飲み物を手渡してその腕が頭を撫でる。若干ニールの胸に寄せられた。
その腕が嬉しくて自分からもニールの胸に擦り寄り、目を細める。

俺はきっとニールに恋をしている。
こんな時期に何を考えているんだと、自分自身ですら思ってしまう。でも、逆にニールがいるから、会いたいから頑張れた。
だが、ニールがどう思ってるのかは確認してない。何気無く彼女はいないのか聞くと、今はその時期でないから作らないと言っていた。
今はいない。という事がすごく嬉しく感じながらも、すぐに彼女を作ってしまうかもしれない不安に駆られる。
ましてや自分は男で、知り合いの子ども扱い。相手にしてもらえない。
そう思うだけで、寂しくて辛かった。

「どうした?」
「何でもない。」
「…そうか、」

寂しくて顔をニールの胸に充てる。その動作にニールが声を掛けてくれるが言えるわけないから、何もない振りをする。そんな俺に何を思ったのか、自分で持っている缶珈琲を一口飲み俺の頭の上に置いている手を動かし、もう片方の腕も俺を包むように抱き締めてくれた。
いつも慰めてくれる腕。安心から一息が出た。
日付が変わる前に、というニールの言葉に不満を感じながら車の助手席に座る。
最近では俺の指定席になり、座席の調整もいつも変わってない。
また、それが嬉しくて運転しているニールの横顔を見る。

「何見てるんだ?」
「ニールの顔」
「カッコいい?」

ふざけた事を言ってくるニールに、半分おふざけに乗る。

「カッコいいよ」
「今日は素直だな〜」

クスクス笑うニールの顔見ながら適当に返事をした。
その時、

「刹那。受験が終わって合格発表の日空けとけよ」
「なぜ?」
「お祝いするに決まってるだろ!」
「受かると決まってないのに?」
「刹那なら絶対受かるよ。俺が愛情込めて教えてるんだから」
「…気色悪い」

そんな事言うか!?と続くニールの言葉を無視して、この約束がとてつもなく嬉しいものになった。

受験まであと数日まで追い込まれて、流石の刹那もピリピリしていた。そんな中、受験日前の最後の週末はニールの家で泊まり込みで勉強に集中する事になった。

だが、勉強をしたくない。
でも、しないと不安で仕方無いから参考書を見る。
頭がパニックになりそうだった。

「刹那…」
「ん…?」

参考書から目を離さず返事をすると、ニールの手が優しく刹那の頭を撫でた。

「なんだ?」
「ん〜、何も。ただ、頑張ってる刹那が可愛くて、ね」
「…好きにしろ。」

ため息をつきニールのさせたいようにさせ、自分は勉強に集中した。のに、また話しかけられた。

「刹那、約束覚えてる?」
「何の?」
「合格発表の日」
「…忘れてはいない」

忘れるわけが無い。その日を楽しみに今を堪えているのに。

「来週は受験、再来週が約束の日。…頑張れな」
「ああ、そのつもりだ。」



合格発表当日。

掲示板に貼り出されている合格者番号。
自分の番号の近くを確認して番号を細かくみていく。

『あ、れ…』

無い。

何度確認しても見当たらなくて焦る。

『刹那の番号無いな』

振り向けばニールの姿。緊張と絶望で泣きそうになる。

ニール

名前を喚びたいのに、声が出ない。

『残念だったな。これで俺も刹那の先生おしまいだな。これで、もう会うことは無い。』

ニール!

背中を向けて歩き出す姿に追いかけようとするが、身体が金縛りに合ったように動かない。何度も呼び掛けようとしても声も出なかった。

ニール!

涙が溢れる。
嫌だ。ニールに会えないなんて堪えられない。
無我夢中で身体を動かした。
最大限の声を出そうと、腹に力を入れる。




「ニールッ!っは、…っ」

「刹那!?どうしたの?」

扉の向こうから母親の声が聞こえた。
目の前にある自分の手を見つめて握ったり開いたりをして感覚を確かめた。

「夢か…」

夢にしては洒落にならない代物だった。
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