番外編

□先生
2ページ/3ページ


ベッドから抜け出し、身仕度を整えてリビングに向かう。

「悪い夢でも見てたの?ここまで聞こえたけど」
「…そんな所だ。」

朝食を置かれた席に腰を掛けていると、母親から先程の事を聞かれる。

「どんな夢だったの?」
「…、受験に落ちる夢」
「朝から縁起悪いわね…」
「そうだな…」

夢の一部を話したが、詳しく話すことはしなかった。

「今日が合格発表なのに、正夢になったらどうしましょう…」
「…。」

今日は夢でも間違いでもなく合格発表なのだ。
合否はネットより先に掲示板で貼り出される。貼り出される時間は10時15分。3時間を切ったくらいだ。
早く知りたいようで、知るのが怖い。
その時自分の携帯が震えた。
携帯のディスプレイには“ニール・ディランディ”と映し出されていた。
席を立ち急いで携帯に出た。

「刹那、家か?」
「ああ、そうだが。…なんだ?」
「今日合格発表だろ?だから一緒に行こうと思って」
「…。まだ、3時間ほどある」
「じゃあ、2時間後に迎えに行く!」
「誰も一緒に行くとは言ってない!!」

合否を一緒に行くと言うニールにどうしようと、戸惑う。
一緒にいたい気持ちもあるが、不合格だった時のあの夢が正夢になりそうで怖かった。

「大丈夫。刹那は合格する」
「ニール…」

自分の考えていた事を指摘されて、ニールの言葉に安心させられそのまま一緒に行く約束をしてしまった。
決めてしまった事だと自分を納得させて、朝食を済ませ準備を始めた。





“ピンポーン”

インターフォンの鳴る音が聞こえて、母が玄関に向かう気配を感じた。

「刹那ー、ニール君が来たわよ」
「ああ、分かっている」

玄関から母の声が聞こえて、予想出来ていた人物が来たことを知らせた。

「おはよ、刹那」
「おはよう」
「じゃあ、刹那借りていきますねお母さん」
「ええ、宜しくね」
「…行ってくる」

ニールより先に家を出て行くと後から刹那を追うように出てきた。

「刹那待てって」
「…ああ。」

ニールに呼ばれるが、それに返事だけしながら家の前にあるニールの車に先に乗り込んだ。後から運転席にニールが乗り込んだ。

「まったく、人の話聞いてないだろ…」
「話は、聞いた」
「お前さんは…、まぁいいや、まだ少し時間あるしドライブでもするか」

宛もなく車を走らせているニールはいつもは煩い位なのに今日に限って喋ることが少なかった。きっと自分に気を使って居るのだろう。
ぼーっと、外を眺めていると学生らしき人が歩いていた。今日はどこの学校でも合否発表だから、制服を着た学生が一同に同じ方向に向かっている。

手が震える。

きっと今朝見た夢の影響もあると感じながら、握りこぶしを作り気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。

ぎゅう…

「大丈夫だ。」
「ニール…」

自分の拳を優しく包んでくれるニールの掌に、違う緊張をしながらその掌を両手で包んだ。

「合否、一緒に見に行っていいか?」
「っ、」
「どんな時でも刹那の一番になりたい」
「…分かった。一緒に見る」

嬉しそうな顔をして刹那を見てくるニールに、運転に集中しろと指摘しながら目的地にと、向かった。





受験の時に来たときは一人で、特に何も考えていなかった。だが、この合格発表の日は隣にニールがいる。

本当に正夢になるかもしれない…

暢気なことを考えながら学校までの道程を移動していった。




学校に到着して車から降りる。運転席の扉が閉まる音も聞こえて、隣にニールが立つ。
時間まで10分を切っていた掲示板のある棟までは距離があるので、二人で並んで歩いた。

お互いが無言のまま歩き、門を曲がるとたくさんの人だかりが出き始めていた。人混みの中に紛れながら歩いていたが、人に圧されて中々前に進む事が出来ないでどうしようかと考えているとニールが手を握って引っ張ってくれる。頭一つ分以上高いニールに支えられながら掲示板の前まできた。

びっしりと書かれている受験者番号に食い入るように探した。


「ぁ…」
「あった!」

刹那の声よりも大きな声が嬉しそうに張り上げた。
振り返りニールの顔を覗くと嬉しそうに抱き締められた。

「刹那!やったな!合格だ!!」
「ああ。…良かった」

自分の事のように喜ぶニールと、他人事のように言う刹那にお互いが可笑しくてくすりと笑った。
廻りにも一喜一憂するもの達がたくさんいる中で二人はもと来た道を歩く。時々ニールが刹那の頭を嬉しそうに撫でていた。そのニールの掌が心地好くて心が弾んだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ