月明かりを嫌う
□本当にトリップしたようだ
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育ち盛りだもの、当然だね。
そう笑って、夕飯の支度を始める千代さん。
床へ入っておいでと促され、抜け殻のような私は言われるままに戻った。
布団を頭からかぶる。
おかしい。おかしい。おかしい。
死んでもいなくて夢でもなくて、私の頭も正気なら、私のこの状態は俗に言う『トリップした』って事なのだろう。
確かにそう言われれば、機内で目覚めてからの一連の不可思議な事に説明はつく。だけど。
本当に、本っっ当に、今が室町時代なのだとしたら、その時代にあんなものあるはずが無いのに。
いや……待てよ。
私はふと、この非常時に、重要なようなどうでもいいような、そんな事を思い出していた。
とある教育番組で、あるアニメが放送されている。
それは忍者を目指す少年を主人公としたもので、私もチャンネルをいじってる時なんかに、たまに見ていた事がある。
そして、「いつの時代がモデルか知らないけど、その時代にそんな物あっていいの」と、笑った記憶が……ある。
まさか。
嘘だろ、おい。
いくら何でもそれはないだろ。
起き上がって辺りを見渡す。
現実だ。アニメじゃない。
そんな馬鹿げた事を確かめてから、忙しく働く千代さんの後ろ姿をじっと見つめた。
確かめてみた方がいいような気がした。
私が知るかの番組の知識なんて、主人公の三人組と、その担任二人と、学園の名前と変な犬と、学園長がお爺さんということくらいだけれど……。
「あの、千代さん」
思いきって、声をかける。