月明かりを嫌う

□学園長先生の突然の思い付き
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耳に装着して、布団に潜り込む。

ちょうど、大好きな曲が流れている。

ピアノ演奏の他は、所々邪魔しない程度にストリングスだけ。
しっとりとして、ほんの少し物悲しい。
とても綺麗な曲に、透き通る女性歌手の歌声。

二人組のユニットなので、私はよくお母さんと歌っていた。
歌詞もシンプルだしゆったりと安定して歌えるので、お母さんもこの歌が大好きだ。


じわりと涙がにじむ。

お母さんには、多分会いたいと思う。

何も言えないままこんな事になってしまったから。

そんな風に思うのがお母さん一人というのも、我ながら薄情な話だ。



その夜私は、夢を見た。

飛行機に乗っているんだが、突然周りに何も無くなって、私はどんどん落ちていく。

恐怖で泣き叫ぶけど声が出ないし景色も闇一色で、音もない。

そのうちプツンと意識が途切れて……ぐっと、腹の辺りに誰かの腕が回され意識が戻る。
強く抱き締められる苦しさと共に浮き上がる感覚がして……



「……さんっ……ゆうさん!」

「……っ! へっ!? なんっ!?」


揺すられた私はしこたま驚いて、咄嗟に辺りをキョロキョロした。
ビビリは寝起きもやっぱりビビリだ。

起き抜けのハッキリしない視界に、とんでもない美人の顔が映る。

「……はい!? え?」

目をしばたくと、美人は心配そうに顔を覗き込んでくる。

「大丈夫? すごくうなされていたわよ?
何か悪い夢でも見たの?」

何だかすんごくモヤーッとした声の人だな。

……ん? というかここはどこ?
あなた誰?
私の見た夢? 何だっけ?

「あの、」

言いかけて、ウォークマンが耳にささっている事に気付く。

そっか、聴きながら寝ちゃったのか。

音楽は止まっていて、電池も減ってないので夢うつつの中無意識に自分で止めたのだろう。

どうりで美人さんの声がモヤッとした訳だ。
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