月明かりを嫌う

□相似条件
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やがて長屋の、滝夜叉丸くんと喜八郎くんの部屋の前にたどり着く。
誰もいないと思って開けようとした時、障子が勝手に開いたので私はしこたま驚いた。

そこに無表情に立っていたのは喜八郎くんだ。

マジか。気配に全く気付かなかった。


「おやまあ」

のんびりとしたリアクションの後、喜八郎くんは私と滝夜叉丸くんの為に一歩下がってくれた。

「あ、ど、どうも……」

しどろもどろしながら足を踏み入れる。

すると喜八郎くんは滝夜叉丸くんの横に回り込み、彼を支えると私から引き離した。

「どうもありがとうございましたー」

見事に無表情。

「お、おい喜八郎! 私は別にお前なんぞに支えてもらわなくてもだな……!
ただゆうさんが私の怪我を気遣って掴まってくれと仰ったのでだな、その、なんだ」

滝夜叉丸くんの言葉が尻つぼみに消える。

それもそのはず、喜八郎くんは聞いているのかいないのか、私をじっと見ていた。

「何で滝夜叉丸が歩けないと分かったんですかー?」

「は? いや歩けるぞ? ただちょっと痛みで支障が、」

「滝夜叉丸はくそ意地で隠していたのに見破るなんて、まるでくの一みたいだ」

「あの、新入生だけど、私くの一教室に入ったから、ね?」

「それは知ってますよー。
でもそういう意味で言ったんじゃありません」

うう……怖い。
同じ「くの一みたい」と言われるのでも、伊作くんと喜八郎くんじゃ大違いだ。
しかし敏感体質と説明してこの子に通じるだろうか?
「はあ?」と返されて終わる気がする。

それに私の敏感体質をもってしても全く何も読めないなんて喜八郎め、初めてのタイプだぞ。


「くの一教室の場所分かりますー?」

「えっ? 話変わるの?
いや、分かんない」

「何と! ゆうさんそれじゃ帰れないではありませんか!」

「本当にお姫さまだったんですか?」

「あ、こらアホ八郎っ!?」

「ところで夕食はもう召し上がりましたかー?」


て、天然か? 狙ってるのか?

このマイペースぶりにすっかり呑まれた私は唖然として立ち尽くすばかりだ。
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